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上社(兄)の758革命

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第1章 ラッシュアワー



【時間軸】・・・異次元暦42730年1月26日 AM8:45
【場所】・・・758号世界 東京都 東京駅前



   ガコンッ!

 自動販売機の受取口に、温かい缶コーヒーが落ちた。微糖で温かいその缶コーヒーは手に掴まれ、自動販売機から寒い外へと出ていく。寒い外気へ放たれた湯気は、たちまち消えた。
「しかし、寒いな……」
缶コーヒーを手にした若い男は、寒そうにそう呟くと、缶コーヒーのフタを開けて飲み始めた。心地良い温かさらしく、彼の表情は穏やかになる。

 缶コーヒーをゴクゴクと飲んでいるその男は、上社伏見(上社兄弟の兄のほう)であった。CROSSの隊員である彼は、山口たちCROSS上層部が「プロデュース」する『758革命』という任務を遂行するために、休日のラッシュアワーを迎えている東京駅にいた。
 彼は、若者向けのデザインの青いコートを着て、ミュージシャン用のバッグを肩に背負っていた。彼の近くを通り過ぎていく人々の目には、なんか音楽をやっているイケメンにしか見えず、暇そうな警察官に職務質問されることも無かった……。
 もしまだ生きているとすれば、その警官は、職務質問をするべきだったと後悔していることだろう。


 缶コーヒーを飲み干した彼は、まだ温かい空き缶をゴミ箱に放り捨てると、周囲をゆっくり見渡す。
 どこから出現したのかと思えるほどのたくさんの人々が、東京駅を行き来している。レンガ造りの東京駅には、多くの鉄道が通っており、彼の分隊(5人)の任務は、ここを占拠して、交通網を一気にマヒさせることだ。今日は日曜日で、観光客や日曜出勤の社畜によって、駅は混雑していた。
 彼は、3年ぐらい前の東日本大震災のときにテレビで観た、大混乱に陥った東京の交通網を思い出し、自分たちもああいう大混乱を起こすのだろうなと思った。そして彼は、自分の弟である上社鳴海は、どういう気持ちで自分たちが起こすことをテレビで観るのだろうかと、考えずにはいられなかった。
『そろそろ移動するぞ』
そのとき、彼の両耳に入っている通信機兼耳栓から、声が発せられた。彼の分隊のリーダーである隊員の声で、その声を聞いた彼は、
「了解」
覚悟を決めた口調で応答した……。バッグを握る手に、力が自然に入る。


 上社は、東京駅の駅事務所近くまで来た。ここに来る途中、巡回警備や立ち番の警察官と何度もすれ違ったが、休日のラッシュアワーで混んでいたこともあり、怪しまれることは無かった。彼だけでなく同じ分隊の隊員3人と分隊長も同じようで、楽々と事務所近くまで来れた。すると彼らは、素早くバッグから武器を取り出した……。上社は、バッグから武器を取り出すと、空になったバッグを放り捨てる。
 彼らが手にしている武器は、すべて同じ銃だった。その銃は、CROSSが特務艦といっしょに注文しておいた銃であり、この世界にはまだ存在しないレーザーライフルであった。発射されたレーザー弾は、人体を一瞬にして粉末にしてしまうほどの高い威力を持つ。
「拳銃も用意しておけ」
分隊長は、上社や他の隊員にそう言うと、自分の拳銃に初弾をセットする。それに続く形で、上社たちも拳銃をいつでも撃てるようにした。彼らの拳銃は、ドサクサに紛れて入手したため、種類がバラバラになってしまった。
 すぐ横を利用客が行き来する中、上社たちは堂々と武器を用意したりしていたわけだが、利用客たちはチラ見するぐらいで、自分の目的地へと進んでいった……。現代の日本人は、自分のこと以外はどうでもいい人種なので、これは当然のことだといえる……。おそらく、中国軍の兵隊が毛沢東をたたえる歌を歌いながら行進していたとしても、気にしないことだろう……。

『よし、『758革命』開始だ!!!』

 上社たちが準備を終えたとき、ちょうど『758革命』の作戦開始のアナウンスが、CROSSのリーダーである山口から威勢よく出された……。上社たちはほぼ同時に、CROSSの水色のベレー帽をしっかりとかぶる。
「よし行くぞ!」
分隊長は、やる気満々で命令すると、駅事務所のドアを乱暴に開け、先陣を切った……。