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怪物狩り 序章

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「日常」には、「そして」という順接しかない。何ひとつ、「しかし」「ところが」という逆接がない。
 それは、安定とも言えるし、退屈とも言えるだろう。
「日常」には、価値がある。
しかし、その価値に気付くのは、多くの場合、「日常」が失われ、それを取り返すことができないと気付いた時である。

 3講目の講義は、一般教養科目の「日本の歴史1」だ。
 ヒロシは違う講義をとっているので、別れた。
 講義室に到着すると、同じサークルのヤマトと出会う。
 ヤマトの横の席が空いているので、そこに腰を下ろす。
 すると、ヤマトは、軽薄な調子で、今から思えばオレに対する社会生活上の死刑宣告にあたる一言を告げた。
「昨日の写真、すごいインパクトやったよな。あれ、サークルのメーリスで流しといたで。」

「昨日の写真」とは、ヤマトがバイトしているコンビニで、オレが陳列棚に寝そべって、「人がコンビニに陳列されている」というシュールな風景を撮影したというものだった。
 オレ自身、その写真のインパクトには自信があった。
そして、棚で寝そべって写真を撮ろうと言ったのはヤマトだったが、うつ伏せに寝て尻を半分出すというアドリブをやってのけた自分のノリの良さと勇敢さを誇示したいという気持ちもあった。
 だから、サークルのメーリスで流れるくらいなら、外部に出るわけではないし、いいかなと思った。
 そのため、オレは、ヤマトの対してこう言ったのだ。
「グッジョブ!」

 しかし、その写真は、サークル員だけが見る内輪のものではなくなってしまった。
 誰でも、いつでも、世界中のどこからでも見ることができるものになってしまった。
 そして、某有名掲示板で、「祭り」と言われる状態になった。
 オレの氏名や、大学、住所等、個人情報は全て特定され、公開された。
 大学にも写真のことは知られてしまった。
 写真を撮影したコンビニは閉店することになり、損害賠償を請求すると言われた。
 新聞やネットニュースにも載った。
 オレは、大学を退学になり、多額の債務を抱えることになり、これまでの「日常」を失った。
作品名:怪物狩り 序章 作家名:宇都 治