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参時の冒険譚

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六 エジプトの別れ


  32

 その後,朝起きれなくなるというようなこともなくなり,僕は元の生活に戻った。そんなこんなで合格ラインを下回ってしまった志望校は,一つレベルを下げることになった。本当に何も前と変わらない。
 好きになってしまった人と,世界一の親友を同時になくしてしまったショック
だけが残った。
 もう受験は一週間後に迫っている。夜中の三時,僕が受験勉強を切り上げる時間。そうか,今エジプトは二〇時なんだ,と気づく。あの戦争は,参時の冒険譚に僕を呼んでいたんだ。
 その日,僕は夢を見た。ライラとマンドゥーハに会った。「久しぶり」と言い合った。
 そうしながら,僕はこの世界でだんだんと成長していった。

  33

 大学生になって,彼女が出来た。旅行に行こうという話になったので,エジプトに行きたいとせがんだ。
 彼女が観光都市カイロのマッサージを受けている間,僕は「ちょっと行ってくる」と,一人で砂漠に行った。ギザのスフィンクスへはここから十二キロある。そして,スフィンクスをあの時と同じ角度から見た。
 ここに集落があった。…いや,将来できるのか。
メールで「まだ?」と急かされたので,慌てて帰路についた。帰り道,最後にナイル川を覗く。
カイロの市街がナイル川の向こうに見える。ナイル川は静かに流れていた。僕は,川のむこうに向かってヤッホーと叫んだ。
 胸ポケットで,携帯電話が鳴った。
「早く,こうじ,次の観光行こうよ」
「うん,行く」
僕は電話を切り,ナイル川をもう一度覗いた。
 「さよなら,また未来で」
                完
作品名:参時の冒険譚 作家名:kuma