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ウエストテンプル
ウエストテンプル
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機体むすめ 2

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広大なアスファルトの上に立っていると自分のちっぽけさが身に沁みる。
天王洲イルアは地平線の果てを見ている。
彼の視線の先にあるのは着陸を完了した航空機だ。
遠目で見るとさすがに小さい航空機は、方向転換をして誘導路を走行する。

「さて、今日もしっかりときれいにしてやるか。」

天王洲イルア、彼は飛行機の清掃係りだ。
飛行機が停止する場所にて彼は仕事の開始を待っている。
待機中の彼に向かって走行する飛行機は除々に大きくなる。
今回の彼の担当は、新千歳発の国内便だ。
近づいてくる飛行機をじっと眺める。
巨大な影が彼を覆いだした。
停止位置まであともう少し。
両手にうちわのような物を持った誘導係が鉄の巨体のスピードを抑える。
誘導係の仕事は完璧、完全停止。


天王洲イルアは航空機を真下から仰ぎ見る。
「国内便でも近くで見るとやっぱでかいよな。」
いつ見ても飛行機の大きさは圧巻そのもの。
巨大な鉄の機体のエンジン音が止まると、到着ロビーから通路が伸びて飛行機の扉へはりつく。
空の気圧に耐えるための厳重な扉が開く音がした。
空気が漏れる音の後は靴の音、空の移動を終えた人々の足音が機体の下からでも聞こえてくる。
ツナギの中にある整備用のゴーグルを取り出す。
「いや…、これつけるにはまだ早いか。」
独り言を呟いたと同時、無線が鳴った。

「お客様は皆様降りられました。」
機長からだった。
機長席はここからでは見えないが、志操堅固にして精悍な顔つきである事はこの無線の声でも簡単に想像できる。
「お疲れ様です。」
負けずに凛とした明るい声で応じる。
「キャビンアテンダントによる簡易な機内清掃も終わっています、後はお願い致します。」
「承知いたしました。」
交信終了後、フライトを終え控室へ向かうクルーらから飛行機を引き継ぐ。

「さて、仕事を始めるか。」
客室だけでなく細かな場所まで清掃を行うのが彼の仕事。
先程、取り出して手に持ったままのゴーグルをかける。
そのゴーグルは天王洲イルアの視界に大きな変化をもたらす。

「おかえり、ごくろうさま。」
語りかけたのは、それまで鉄の巨体として鎮座していた航空機が、巨大な女の子になっているから。
これがゴーグルを介して見る事ができる世界。
「ただいまぁ、今日もお願いしまぁす。」
彼が今回担当するのは天真爛漫な機体娘だ。
語りかけて言葉が返ってくるのだから聴覚にも大きな変化が起きているのは言うまでも無い。


彼がこの現象に初めて会ったのは、粉塵対策用にリサイクルショップで購入したこのゴーグルを卸した日だった。
受けた衝撃は大きかった。
これまでの常識が崩壊した。
これから清掃しようとした機体が柔肌の巨大娘となり、滑走路へ目を向ければ巨大な女の子達が空を飛んでいる世界がそこにあったのだ。

まず自分を疑った。
これは夢だろう。
自分自身で平手打ちをやってみる。
痛い。
なら、夢では無い。
じゃあ、こんな幻覚を見てしまうのは、自分の頭がおかしくなったからなのか。

頭が混乱している最中声をかけられた。
担当だったのは国際線の航空機。
「ねぇ、早くしてくれないかしら?」
旅客機は胸の大きな金髪巨大少女に変貌し、艶めかしい声でせかしてくる。
確かに搭乗人員の多い旅客機ならいち早く仕事に着手しなければならない。
明確に起こってしまって出来事であるなら受け入れざるを得なくなる。
「あ、はい。」
天王洲イルアは一旦視野を広げるためにゴーグルを外す。
すると、「あ、あれ?元の飛行機になってる。」
扇情的に座っていた金髪機体娘は、大量輸送を可能とするジャンボジェットのシルエットに戻っていた。

「な…なんだったんだ…一体?」


これが天王洲イルアの初めての機体娘体験。
そこから彼は実証を重ね、このような現象を起こすにはこの場所でこのゴーグルを着用することだと見出していた。

実証はこれだけに尽きない。


まず服装。
彼の認識下での機体娘は、航空会社によって色が違う際どい水着で大事な場所だけを隠しており足は露わとなっている。
それは噴射機能付きの靴のため。
その靴は空を飛ぶ際裏から炎を噴出させる仕様なので下半身はそうせざるを得ない。
彼はそう判断した。
「まぁ、もし仮に俺と同じ状況になっている奴がいたとしても見え方は色々あるだろうな。」
彼はある仮説を立てた。
「女の子に着て欲しいと思っている衣装の願望がこの子らの服装の認識になっているんじゃねぇのかな。」

天王洲イルアの認識では、機体娘らの服装は水着と噴射機能付きの運動靴をベースとし、後は個々の機体ごとに異なった上着を羽織っている。
「これってズドンと来てんだよ、俺のピントに。」
自分は水着に何かを羽織っているシチュエーションが好きだ。
その好みが見事に反映されている機体娘達の服装である。
「だから、制服が好きな奴はそうやって見えるかもしれねぇ。」


次に客観視。
機体娘の体の上を登っている最中にゴーグルを外すと機内をただ歩き回っているだけの光景へと変わるのだが、もし、この状況を他人から見られている場合、自分はどのように映っているのか確かめてみた。
それとなく同僚に聞いてみる。
返ってきた答えは意外であったが彼を安心させた。
天王洲イルアは黙々と作業をしている。
それが評価で他人から見えている彼の勤務中の様子だった。
ただゾンビのように動き回っているのではなく、きっちりと仕事をしている。
機体娘へのマッサージが他人にはそのように映っていた。

これさえわかればそれ以上深くは突っ込まなかった。
このような非常識な認識をしているのだから他人にも認識のズレがあってもいいはずだ、と。
インターネットにおけるブラウザを説明できなくとも操作ができるように、細かい仕組みがわからなくともやっていく事に支障が無ければそれでいいのだ。

なにはともあれ客観的にそう見えていれば好都合。
この機体娘との話に深い意味は無いし、ただ萌えることができれば良い。
機体娘にマッサージをしている自分は機内を清掃していることとなっているのだからそれはそれでいいじゃないか。
彼は心にそう定めている。


実証をしていった結果、仮説が生まれ開き直る事が最善と悟った天王洲イルアであったが。そうした実証と同時に経験も重ねた。
最初はどぎまぎしてしまいゴーグルを着けたり外したりを繰り返したが今ではずっとつけたまま。

もう、機体娘へのコントロールは意のままである。

今回担当するのは国内線の中型機。
最初に衝撃を受けた国際線の機体娘より容量に関しては若干の見劣りがある。
容量=乗員定数=胸の大きさ。
可能登場人員に比例する胸の大きさ。
彼の目の前にいる中型機の彼女は、ジャンボジェットの金髪機体娘ほど胸は大きくない。
だが、
「国内便でも近くで見るとやっぱりでかいな。」
やはり近くで見ると大きい。
機体娘にとって彼は小人も同然。

青い水着の機体娘は頬を膨らませている。
「どうした?」
「むぅ、なんか屈辱的な事を思われていた予感。」
「はは、そんなことないよ。」
「だって、ずっとおっぱい見てるし、(やっぱりでかい)って…。」