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ウエストテンプル
ウエストテンプル
novelistID. 49383
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機体むすめ

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「いつも眼鏡をかけているのは事務室、だけど今日は。」
初めて眼鏡をかけてここにいる。
関係者以外立入禁止の特別な場所。

「てことは。」
彼はビルの屋上の扉を開けて階段を降りる。
やはりそこはいつもと変わらない世界だった。
眼鏡をかけたままでも非常識な事は何一つ飛び込んでこない。
いつもどおり人が行き来する空港内であり、事務所に戻って窓から飛行機を眺めてみても柔肌の女の子では決して無く、堂々と鎮座している巨大な鉄の機体だった。

眼鏡はあの場所以外ではただのブルーライト対策の眼鏡でしかないようだ。

上司に忘れ物をしたと告げ屋上へと戻る。
「さて、あれ一度きりじゃねぇよな。」
帳簿が合わなくなるのと同じぐらいの不安の気持ちのまま屋上の扉を開ける。
そこには――――――――、
飛行機が特殊なブースターを足に装着した巨大美少女に変貌している光景だった。
ビンゴ。
確信した。
でもまだ確かめたい事がある。
ポケットからデジカメと度が入った眼鏡を取り出す。
デジカメは自分のだが眼鏡は上司から無断で借りてきたものだ。

彼が確かめたい事は2つ。
1つ目はデジカメでこの場所から飛行機を撮影するとどうなるか。
2つ目は他の眼鏡で見ても飛行機が女の子に見えるかどうか?
実証に時間はかからない。
すぐに終わった。
デジカメのボタンを押し、眼鏡をかけ替えるだけ。
「そうかやはりな、この場所でこの眼鏡ってのがポイントだったんだな。」
デジカメの映像と上司眼鏡とも飛行機は鉄の機体でしかなかった。

「て、ことは俺だけの秘密ってわけか。」
羽成国際の顔が大きく綻ぶ。
まるで秘密基地を作りあげた少年のごとく。

日常の中で非日常を見つけた高揚感。
常識の世界にいながら好きなタイミングで非常識への扉を開けることができる特別感。
関係者以外立入禁止のこの場所でそれを独占できる優越感。

「じゃあ、じっくりと観察とでもいきますか。」

彼は機体娘の事を精査する余裕が出てきた。
服装は色以外統一されている。
どの女の子も上はブレザーで下はスカートだ。
ブレザーのデザインは凝っており、深夜アニメに出てくる学園の制服のようにも見えてくる。
スカートは極端に短い。
どうやら、足に装着するブースターに関係しているようだ。
特殊なブースターは膝上の位置にまで装着しなければならないのでスカートは短くせざるを得ない。
そのせいで、少し風が吹いただけで簡単にめくれて中が見えてしまう。

下着の色はどうやら自由のようだ。

さて、ブレザーとスカートの色の違いだがよくよく見るとそれは航空会社の区別だとわかった。
巨大な女の子達は同じ色同士が集まっている。
白を基調としたり青がメインだったり黒で統一している集団もある。

すると、風向きが変わったのか声が聞こえてきた。

「ねぇ、今日はどこまで行くの?」
「パリよ。」
「へぇ、いいなぁ。あっ、お疲れ!」
「ただいま。」
「どこ行ってたの?」
「リオデジャネイロだよ。」
「暑くなかった?」
「うん、今、南半球は夏だからね。」

視覚だけではなく聴覚までも非常識な世界に引き込まれたが彼は何も思わない。
深い意味は無い、ただ萌えられればいい、ただそれだけ。
彼はそう割り切った。


「んじゃ、今日の目の保養終わりっと。」

彼はあの衝撃的な日を思い出しつつ寒空の下背伸びをする。
この場所限定で飛行機が女の子に見えようと彼の仕事や生活になんら支障は無い。
羽成国際は最近、機体娘について気がついたことがあった。
それは、定員乗客数と機体娘の胸の大きさは比例することだ。

国内線は中距離機とのこともあり胸は控え目で、国際線からくる外国の機体娘は往々にして胸がでかい。

「まぁ、機体のスペックだけじゃなく航空会社の方針もその性格に現れるんだから面白いよなぁ、さて、飛行機を擬人化するこの眼鏡にこの場所。存外、俺だけじゃないかもしれないな。」

寒いと頭が冴えてくる。
あの時は高揚感から自分だけが特別だと思えてしまうが、それも次第に薄れていき他の誰かもそうなっているんじゃないか?とも思えてしまう。

ただ、それは彼には関係は無い。
彼は事務仕事へと戻る。
彼のローテーションの時間が始まる





「整備さん、今日もお願いします。」
「はいよぉ~、じゃあ、横になってくれるかな?」

巨大な機体娘は横になり彼女から見れば小人である男性にこれからの全てを委ねようとしている。
作品名:機体むすめ 作家名:ウエストテンプル