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ウエストテンプル
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ナイトメアトゥルー 2

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放課後の教室はデートスポット

ナイトメアトゥルー 2


上品で清楚な待瀬の小さな尻であっても座る時の圧力は容赦が無い。
今の俺にとってそれはとてつもなく巨大な果実なのだから。
待瀬の下着はその性格らしく純粋な白。
その白い果実からのニオイに圧迫されながら今回の夢の中での生還の方法を模索しなければならない。


さて、先に断っておくが今回の話は汚い話であり、人によってはかなり不快に思うかもしれない。
しかし、それは生物が生きていくうえで決して避けられない現象であり、またそういった事を忌避一偏等でくくるのもどうかと思うのでありのままを伝えたい。

どんなに清純だと思っていた人間でもそこには必ず汚さはあるのだから。







「ですから。最初の行事でございますので、皆様が一致団結するシンボルとしてクラス全員で一緒のTシャツを作ればいいと思うのですの。」

「あぁ、いいんじゃね。別に。」

旧暦ではなく太陽暦、すなわちカレンダー上での5月も中頃を過ぎたある日の放課後、俺と待瀬 清麗(まちせ せいら)は教室に残って、来月頭にある球技大会における我がクラスの方針を決めていた。

しかし、頭の中は今日の月齢のことで割り振られている。
旧暦とはすなわち太陰暦の事で、月齢(月の満ち欠け)で日にちを割り出す暦である。
明治以降、日本政府は太陽暦を採用したことでこの計算方法は廃れてしまったが、この平成の現代でもその名残は残っている。
例えば、冠婚葬祭時にその日が、「ハレの日」か「ケガレの日」であるのを判断する際に用いられる、大安や仏滅・友引などがそれである。

通常であればこれらの順番は、
大安→赤口→先勝→友引→先負→仏滅であるが、
カレンダーをよく見てみると、たまにこれらの順序が変わることに気がつくだろう。
大安→友引と、いった具合に、だ。
この飛んだ日が太陰暦での月の始まり「朔」であり、月の形は新月となる。
その「朔」の日からまた順番通りに友引→先負→仏滅→大安→赤口→先勝となり、月の満ち欠けと共に日が進んでいく。
そしてまた、太陰暦の「朔」の日が来ればこの順番が急に飛ぶ。
この作業を12回繰り返すのが太陰暦だ。

ともかく、「朔」の日はとっくに過ぎていた。
さて、次の満月の日は何日だろうか…?
また俺にとっての憂欝な日が近づいているのである。
俺は満月の日に悪夢を見る。

その悪夢とは、自分の体が小さくなってしまう夢である。
それは、夢の中とは言え、妙に現実的で痛みも感じるタチの悪い物だ。

出てくるのは女の子だけ、それも俺が好意を抱いている女の子なのだ。
それが中学卒業までの俺が見ていた悪夢。
しかし、高校に入学してからの初めての悪夢に出てきた女の子は、好きの感情とは一線を画した身近な女の子だったのだ。

追浜 叶絵(おいはま かなえ)。
4月の満月の夜の悪夢。
その{夢}の中で俺は追浜 叶絵にいとも簡単にあっさりと喰べられ、今までに無い程の痛みを感じてしまっていた。

したがって、もしかしたら次の悪夢も多大なる痛みを感じてしまうのか、と疑心暗鬼にもなってしまう。
よって、待瀬との会話も自然と上の空になる。


机を向き合わせている待瀬がノートに書き物をしながら喋り続けている。
「伊達君は遊撃委員ですので、クラスの皆様の意見を集約して頂きたいの。」
にわかに待瀬は顔を上げると、
「聞いてますの…?私、伊達君が何を考えていたのか気になります。」
と俺の目の中を覗き込んできた。
「あぁ…聞いてるよ。だから…あれだろ。ほら…みんなが出る種目を…。」
ごめんなさい。聞いてませんでした。

やべ…待瀬の目がだんだんときつくなっていっている。

待瀬は、目を閉じふぅとため息をついた。

「もう…しっかりしてよね。
遊撃委員だからって単なる雑用とは違うんだから。
みんなの意見を集めるのって意外と難しいんだよ。」
待瀬は上品な口調から急に言葉の敷居を下げる。

待瀬 清麗はクラスの委員長でありお嬢様の雰囲気を体全体に纏わせている。
言葉遣いだけではお高くとまっている印象を受けるだろうが、実際はそんな事は一切無く、アニメやドラマとかのお金持ちキャラのような嫌味が全く無い。

育ちの良さからにじみ出る品格と物腰の柔らかさは一朝一石で身につけられる芸当ではないし、それを土台としたパーソナリティに加え年相応の女の子の振る舞いを上手くミックスさせているのだ。

固いイメージがありながらも裁量の融通が効くところは、教師ばかりかクラスメート全員からの信頼も厚い。

誰にも平等で器量の良い笑顔は、我が校一の清純美人委員長の肩書きを得るのに時間がかからなかった。
(委員長のポストに就いている女の子で1位って意味らしい。ノージャンルでいくと何故か追浜 叶絵が1位なのだ…世論とはわからん……、変だ。)

そうだ、変な所があると言えば待瀬自身だ。
こいつ、始業前から授業中そして昼休み午後の授業と、ずっとメガネをかけているのに、この放課後の話し合いの時だけメガネからコンタクトへとシフトするのだ。
だったら、朝からコンタクトにすればいいのに……。

真剣に球技大会の話に乗ってこない俺に対し、半ばあきれ顔の待瀬。
「もう…。
運動部にも委員会にも入っていない伊達君しか遊撃委員の適任者がいないんだからね。」
上目で俺を指差す。
そうされると目のやり場に困る。
その体勢だと胸のラインがえらく強調されてしまうからだ。

真面目っ子故にボディラインは滅多にお目にかかれないのだが、噂によるとかなりの物らしい。
優等生故に隠しているそれはおくゆかしさとなって彼女の魅力をより一層に引き立たせているのも否定できない。

そして、先程から待瀬が言っている遊撃委員というのは、クラス委員長の待瀬が担任の若手女教師星野先生に掛け合って、特別に設置された我がクラスだけの委員である。
何でも、クラスの決め事で責任者が不在の事柄を対処するのが目的らしい。

その遊撃委員たるものに何故か俺が任命された。

5月に入ってゴールデンウィーク明けの日の放課後、担任の星野 香美ちゃんと待瀬に呼ばれ、このポストに強制的に就任させられたのだ。

どうやら、うちのクラスは部活動をやっている奴らが多くそれに各委員と兼ねている奴も多いことが原因らしい。
それは、どの部活も全国レベルの我が校にとって委員会の活動よりも部活の練習の方が優先される学校側の方針と相まって、各委員をサポートする役職がうちのクラスにだけ必要だという事になっていた。

繰り返すが、そうした委員に何故か俺が任命された。
委員にも部活にも入っていない男子は俺だけで俺しか適任者がいなかったかららしく、
クラス全体には翌日事後承認って形で報告されたが、誰も反対の意を唱えなかった。

まぁ、結局はみんな人事だと思っていたようだし、特段これにて誰も不都合が生じないのが理由であろう。
ただ、追浜 叶絵だけがその日ずっと機嫌が悪かった。
何故だろう?


「じゃ、今日はとりあえず、これで終わりね。」
待瀬はノートを閉じ、シャープペンの芯を戻した。
やっと解放された。
使った机の周りをいそいそと片付け始める。