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でんでろ3
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ピンポン球の密室(直美シリーズ2)

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「見て! おじさま! いいでしょー! カヴァリの風呂敷よ。ママに、買ってもらったの」
直美は、きれいに折り畳まれたクワガタ模様の風呂敷を部屋の照明に向かって捧げ持って言った。
「おゃ、珍しい。美代の奴、『子供にブランド品なんて、もったいない』って、いつも言っていたのに」
「私、子供K-1音楽コンクールに篠笛で出場して準優勝したのよ。香雲先生にも褒められちゃった」
「それは、すごい! でも、篠笛に勝つなんて、優勝者の楽器は何だったんだい?」
「……それが、エレキ・カスタネットなのよ。信じられる?」
「まぁ、何を使うかではなくて、何を表現するかだからね」
私は、折角の明るい話題を暗い方向に叩き落としてしまったことを、後悔した。
「しかし、カヴァリはすごいよな。まさに、美と機能の融合。キャッチフレーズは『お台所から宇宙まで。世界のカヴァリ』」
「そうなのよねぇ。コップにしろ、パソコンにしろ、はたまた、船外活動コンポジット端末にしろ、機能的なのに、ため息が出るほど美しいのよねぇ。まさに、見るたびに発見がある。『ディスカバリー』の名に恥じないわ」
直美が、うっとりとして言った。
「いやいや、ちょっと待ってくれ。『カヴァリ』は、『ディスカバリー』の『カバリ』からとった訳じゃないぞ」
私は、両の手を振って制した。
「カヴァリの創始者・津鞠洋司氏に聞いたんだが、カヴァリは、もともと『シラカバ針』というブランド名でスタートしたらしい。それが、若者たちの間で人気に火が付くと、『かばばり』と略されるようになり、やがてそれが『カヴァリ』と変化したのを、正式に社名にしたそうだ」
「ふ~ん、でも、キャッチフレーズの『宇宙まで』って言ってるのに、『世界の』っておかしくない?」
「生物は地球にしかいないんだからいいじゃないか」
「あら、いるじゃない」
直美は、タブレットを取り出すと、定期購読している子供科学雑誌を表示させた。そこには、
「特集:人類が初めて遭遇した地球外生命体の驚異の生体」
という文字がデカデカと文字通り踊っていた。
「それは、細菌であって、知的生命体とは、とても言えないだろう。それに、その生物が発見されるのより先にキャッチフレーズができたわけだからなぁ。細菌が見つかったのは最近だ」
「親父ギャグと振り込め詐欺は、この世からなくなるべきだと思います」
そのとき、私は、子供科学雑誌に載っている記事に目をとめた。
「ほぅ、この生物の好物は、ある鉱物だそうだ」
「おじさま? 地獄の業火で焼かれるのと、天国の聖水で溺れ死ぬのと、どちらがよろしくって?」
直美は、満面の作り笑いを浮かべた。
「ま、まぁまぁ、ところで、その生物を発見したのが、そのカヴァリの社員だっていうのは知っているかい?」
「えぇっ? 嘘でしょう? だって、ここにも、JAXONが発見したって……」
「公的な発表ではね。人類史上初の地球外生命体の発見を日本に取られたってだけで、アメリカが地団駄踏んで悔しがることは容易に予想できたからね。これが、公的専門機関でなくて、専門外の一般企業なんてことになったら、発狂しかねないからね。優しい嘘って奴さ」
「ふ~ん、って、ん? えぇ? お、おじさま? おじさまって、その、津鞠洋司って社長と会ったことあるの?」
「あぁ、会ったさ、しかも、1週間ばかり、毎日ね」
「1週間も? どうして?」
「う~ん、実は、これが、また、怪盗ミルフィ~ユの偽物絡みだったりするんだな」
「また、偽者なの?」
直美は小首をかしげた。
「あぁ、犯行自体は本物並にすごいんだが、明らかに偽者だ」
「どうして偽者だって言い切れるの?」
「サインが違ったんだ?」
「えぇっ?」
「ミルフィーユのスペルはフランス語でmillefeuilleなんだが、怪盗ミルフィ~ユはmillefeuileって、後ろのLを1つ少なく書くんだ」
「……ねぇ、怪盗ミルフィ~ユって、バカなの?」
「いや、そうじゃないんだよ。登録商標はわざとスペルの一部を変えたり、大文字にしたりするんだよ」
「登録商標?」
「まぁ、会社やお店の名前とか、商品名なんかだよ」
「ふ~ん、そういうもんなんだ」
「ところがだ。その偽者の送ってきた予告状のサインのスペルは正しいL2つのスペルのミルフィーユだったんだよ」
「ふ~ん、でも、そんな奴のやったことなんて、大したこと無かったんじゃないの?」
「ところがどっこい、おそらく、史上最小の密室ミステリーだろうね」
「史上最小?」
「予告状の内容はこうだ。『今日から1週間以内に、貴美術館所有の真空水晶球内に侵入し、自慢のダイヤの指輪でサインを残します』この真空水晶球というのがピンポン球ほどの大きさの中身が空洞の水晶の玉なんだ」