この声が届くまで 続この心が声になるなら
どれぐらいそうしていたか。ふと、肩が濡れたのに気がついて、夏芽さんの顔をそっと離そうとしたけれど、思いのほか腕の力が強くて、やめた。
「ありがとう」
その、たった一言。
たぶんいろんな言葉が浮かんで、消えて、迷って、最後の最後に残った言葉が、それだったんだろう。どれが適切かを、何度も何度も、考えたんだろう。そんなことしないで、もっと全部、ぶつけてほしいのに。
だけど、たぶん、俺の伝えようとしたものは、きっと伝わったんだろう。「ありがとう」という声と、肩で涙が冷えていく感覚で、そう思う。
「ね、夏芽さん。俺ずっとずーっと、夏芽さんのそばにいますからね。毎年、お祝いさせてください。毎年ちゃんと、夏芽さんが生まれてきてくれてよかったって、言わせてくださいね」
時間はかかるかもしれない。それを伝えるには、信じてもらえるには、俺も伝えなけらばならない。
俺はいつまでも待てるから、あなたも、ちゃんと待っていて。あんまり言葉の上手くない俺が、あなたに届く言葉に気持ちを乗せられるようになるまで。
俺たちのこのこころが、ちゃんと声になるそのときまで。
作品名:この声が届くまで 続この心が声になるなら 作家名:なつきすい