金色の目
伶を憎からず思っていることも、未来にどうなっているか解らないという言葉も、本音だろう。冷静沈着な様で、流れ任せな彼女の思いは、とても微笑ましいものに思えた。
今度伶に会ったら、あいつの本音も聞いてみようかな、などと思いをめぐらせてみる。
(と、その前にもう一つ。ほほえましくも初々しい二人がいたんだっけか)
言い合う兄妹を、ほんの少しのうらやましさを込めて見ている渓都が思いついたのは、自身の小間使いと隣家の息子とのことだ。
先日、事件のあらましを伝えに行かせたところ、雪が両親からやけに優遇されたらしい。これからも息子をよろしく、と念を押されたのだという。
まあ、あの困惑具合から行くと、何も気付いてないみたいだけど、とひとりごちた探偵は、そろそろうっとうしくなってきた相棒の泣き声を止めるため、二人の間へと割って入ったのだった。
庭の掃除をしていた真崎家の小間使いは、人影に気付くと、ほうきを動かす手を止めて、頭を下げる。隣の家から出てきた少年が、ややばつが悪そうにしながら近付いてきた。軽く手を上げ、あいさつを返してくる。
いい天気ですね、お出かけですか、と少女が世間話を仕掛けるよりも先に、この間はごめん、と少年は頭を下げた。ほうきを持った少女がきょとんと目を瞬くと、彼は焦ったように言葉を続ける。
どうやら先日、主の用事を伝えに行った折の、両親の行動に頭を下げているらしい。馴れ馴れし過ぎなんだよ、と吐き捨てた少年に、少女はなだめの言葉をかけた。
私は気にしませんから。ちゃんとお話も聞いていただけましたし、お気になさらないで。気さくな、いいご両親ではありませんか。
でもよ、と少年は何か愚痴めいた言葉を口に出しかける。しかしすぐにその話をやめ、少女の仕事を手伝い出した。謝罪に来て、仕事の手を止めさせてしまったことに気付いたらしい。
少女は遠慮したものの、結局は押し切られる。二人はしばし共に掃除をし、その間たわいのない話しをし続けた。
最近の気候のことに始まり、少年の学校の話、音楽会のこと、伶のこと――いくら話しても話題は尽きない。少女は何度も笑顔を見せ、少年も少女を楽しませることが出来たことに、大いに満足したようだ。
しばらくして、彼らの前に大勢の大人が現れる。少年少女はぎょっと目をむいた。一行の中に主の顔を見つけた少女が、慌てて事情を尋ねる。彼らは皆、仕事仲間だという。
偶然揃ったので、たまには皆で食事でも、ということになったらしい。しかし大人数のため店に入れず、では誰かの家に行こうという状況のようである。
少女は困惑の表情を見せた。これほど大勢の人を、自分ひとりでもてなせるだろうか、と不安になったのだ。主も、その辺りは予想していたらしい。笑いながら、準備は外の人に頼んだから、お前も今日はお客さん、と小さな頭を撫でた。
彼は少年にも気付く。お前もおいでと言い、少年は目を丸くする。すぐに硬い表情で断るも、お前の両親も一緒にと言われると、諦めたような目をし、家に戻ってゆく。
客人の中には銀髪の華族や、探偵社の職員をはじめとする、彼の兄弟たちも勢ぞろいしている。全員を知るわけではない少女は、一体誰だろうと困惑していた。その様子を、青年華族と美しい女性が、肩をすくめつつ眺めている。さらに探偵の相方が、困惑に眉をひそめて二人を見ていた。
ほどなく、両親を連れた少年が尋ねてくる。すると、少女の表情が柔らかくなった。同じ思いを持つだろう者がいるというのは、やはり心強いものである。相手の年が近いとなれば、なおさら安心感は深まった。
静かだった真崎家は騒がしいパーティ会場と化してゆく。優しげな沈黙、淡い恋心、それを見守るいたずら心など、あらゆる思いを孕み、大いに盛り上がったようだ。
終