覇王伝__蒼剣の舞い1
第3話:白い影
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彼は、いつのように棚からお気に入りの茶器を選んでいた。
茶葉は高級アールグレイ。
そしていつものようにふらっと立ち寄る男とティータイムを過ごす。
世情が緊迫していても、これは変わらないいつもの事。
「お前に、やってもらう事がある。尚武」
「ええ、構いませんよ」
それもいつもの事。
ただ、それが予想以上に大きくなる事を尚武もこの男も知らない。
***
馬の蹄の音が、東へ向かう。
行き交う者は、好奇の目で騎乗の主を見た。
燃えるような赤い巻き髪に、軽武装、何処にでもいる自由戦士の装いだったが一つだけ違う者がある。
それは、胸の膨らみだ。
男の姿をしていても、女である事は顔つきや躯つきで直ぐに理解る。
女の自由戦士は、珍しいというより先ずいない。
「もうっ、これだから嫌なのよ!東海道を通るのは」
乱暴に髪を掻き上げ、女戦士はイライラを散らした。
「凌姫さま、間もなく蒼国領内です」
「ちょっと他の道はないわけ?」
「ありますが、かえって怪しまれます」
「それで、来てる?」
「いえ、大丈夫です。ですがくれぐれもご用心を」
「理解ってるわよ」
東海道は、四国街道の一つを云う。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍