覇王伝__蒼剣の舞い1
___いたぞ…!あの女が剣をもっている!!
草が被い茂る中を、女性と子供が走っていた。
数人の黒い甲冑の男たちに追われながら。
何故?
少年には、理解らない。
あんなものなんか、あいつらに渡せばいいのに。
__母さん。
少年は、母に手を引かれながら逃げた。その母の胸には、いっかりと大降りの古い剣が抱かれて。
どうしてこうなってしまったのか。
静かに暮らしたい、それを。
__母さんっ!!
真っ赤に染まる銀色の刀身が、そんな母子を引き裂いた。一振りの剣の為に。
「…何だ。お前か…」
勢いよく上体を起こした男が、気配に気づいて息を整える。
「あまりいい目覚めではなかったようですね、陛下」
「その“陛下”はやめろといってるだろう。瑠邑」
「陛下は陛下ですから」
「で、何のようだ?」
「牙の村に、黒抄の精鋭が現れたそうです」
「牙の村…」
「何か?」
「いや、続けろ」
「率いているのは、義勝(ぎしょう)と云う男だそうです」
「___義勝…だと…?」
清雅は、その名を聞いたと途端、躯が震えだした。
「陛下」
「瑠邑、その名、狼靖に知らせたか?」
「いえ。玄武さまは既に引退の身ですので」
「ならいい。いいか?狼靖には云うんじゃねぇぞ。これは俺の問題だ。いいな!!」
清雅は、傍らの剣を掴み室を辞した。
彼にとって、牙の村と義勝の名は数年振りに聞く名であった。
しかしそれは、思い出に浸れるようなものではなかった。
清雅は、すぐに白虎を呼んだ。
「あの半人前は?」
「拓海の事ですか?彼なら帰りましたよ」
「これから牙の村へ行く」
「牙の村?どこかで聞いた名ですね…、あっ」
「俺が行くのは、別のようだ。黒抄のやつらが現れた」
「ちょっと待ってください。それって…」
「俺を誘き出す罠だって、か?フン、相変わらず見え見えの手を使うぜ」
「ならば、玄武さまにも知らせるべきでは」
「そうしたら、あのクソ親父は意地でも俺をここに閉じこめるだろうな。白虎、お前はどうする?」
「吾は、その玄武さまから貴方のお目付役を頼まれてますからね。といって、止めて止められる清雅さまではないですし、これから玄武さまにおしらせにも、その間に貴方は行かれてしまうし」
「じゃ決まりだな」
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍