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覇王伝__蒼剣の舞い1

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第2話:屍を越えて



              1
 四国___北領(ほくりょう)・西領(さいりょう)・南領(なんりょう)・東領(とうりょう)の四つからなる国。
 前覇王が統一し、穏やかで平穏なこの国が再び揺れ動いたのは覇王の死が切欠であった。
 覇王家の誰が、次の四国の覇王になるか___覇王家三人の兄弟は互いに牽制し、それぞれの領地拡張を始めた。
 後に、黒抄・白碧・紅華・蒼国となる四カ国である。
 だが、更に油を注いだのが前覇王が所有していた剣である。覇王死去時、それは既に彼の手元にはなく、この四国の何処かにあると睨んだ長男・黒狼が四国を戦の渦へ引き込んだのが兄弟間に更なる歪みを生じた。
 故に今でも、仲はよくはない。
 黒抄の黒狼と白碧の聖蓮は手を組んではいるが、お互いを利用しようとしているし、四国制覇も狙っている。南の紅華はじっとなりゆきを見ているが、黒抄、白碧をよく思ってはいない。
 蒼国に至っては、云うまでもない。
 清雅は、四兄弟の中にあって唯一人、覇王家出身ではない。
 母・桜は、ごく普通の平民で争いが嫌いな女性であったという。
 しかし、運命は時として残酷な事もある。どんなに逆らっても逃れられない宿命と共に。
 「__白虎さま」
 蒼国・王城中庭。
 拓海は、一人木陰に立つ男を見つけて近づいた。
 「やぁ、拓海。一人かい?」
 「ええ、さっきまで朱雀さまに追いかけられてました」
 「焔に?ははは、君、彼に気に入られたんだね」
 「笑い事じゃありません」
 「いいと思うけどね。歳も近いし、剣の腕をあげたいのなら彼と稽古するにはもってこいだよ。吾も教えてあげたいが、あまり慣れていくてね」
 「そんな事、四獣聖の白虎ともあろうかと云う人が」
 「吾の剣は、稽古向きじゃないんだよ。何しろ、実戦が殆どだからね。つまり、稽古だろうと本気になってしまうこと。相手は堪らないさ。ついでに、清雅さまも同じだ。寧ろ、あの方の方が危ないかもね」
 リアルな己の想像に、拓海は血の気が引く。
 “教えてください”と頼まずによかったと、内心ほっとしている。
 「白虎さま」
 「星宿(ほとほり)でいいよ」
 「星宿さま、清雅さまと父の事ご存じですか?」
 「叔父と甥、更には養父って事はね」
 だが、その関係をあの二人は微塵も感じさせない。