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チキンというやまい(更に改題)

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可奈






  唐突に風が強くなった。見上げるといつの間にか黒い雲が頭上に押し寄せていた。閃光に驚かされたあと、少し経って雷鳴が轟いた。河田の左腕に可奈がしがみつく。大きな雨粒が落ち始め、慌てて走り去る人影たちの姿が河田の眼に入った。
  十分程が経った。激しい音を立てて相変わらずの驟雨が数メートル先のアスファルトの上をまるで川のようにしてしまった。ただしマンションの玄関前のそこにいればたいして濡れることはない。
  時刻は夕方の六時頃だろうか。左の手首には腕時計があるのだが、可奈を振りほどいてまで確認する必要はないと、河田は思った。
「やむまでの間、私の部屋に……」
 そう、遠慮がちに可奈が云った。
「どこなんですか?」
「このマンションの三階ですけど」
「ここであなたと出会ったのは、偶然でもあり、必然でもあったわけですね……でも、誰かがいたりしたら……」
「そんなことありません。信じてください」
  可奈は今にも泣き出しそうなまなざしで訴えている。
「失礼なことを云ってごめんなさい。じゃあ、お邪魔させてもらいましょうか」
「引っ越してきたばかりなので、まだ完璧に片付いてないんです。でも、コーヒーでよろしかったらお淹れします」