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伊坂 仁蕾
伊坂 仁蕾
novelistID. 39762
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ヒイロとたぬき

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 幼少の頃のしりとり歌を呪文のように呟き、反対側に首を傾げる。
「なんの呪文よ、それ」
 けらりと笑う雅樹が、八尋の肩越しにスケッチブックを覗き込んで、「へー…?」と呟いた。
「なんか知ってんの?」
「いやー?べつにー?まあ、お前ならすぐわかるよ」
 軽く肩を叩き、雅樹は他の友人と共に黒板に落書きを始めてしまう。八尋は首を傾げながらも、朝と同じようにイスに座ってスケッチブックに向かいだした。
 記憶を掘り返して描き切れなかったピアスの輪郭や、服にプリントされていた模様などを描き込み始める。その間、頭の中では『たぬき』の正体について考えていた。
「ん、ん、んー…」
 ぼやきながらもその手は止まらず、線を描き込み、陰影を刻み、スケッチブックを汚していく。手を止めて、腕一杯に距離をとって満足げに頷いたその時。
「あっ!」
 マンガのように、頭の中で電球が光を灯した。
「まさき、って…あれー…?」
 見渡せば、美術室には八尋ひとり。無常にも鳴り響くのは五限目開始のチャイム。ふと黒板に視線を向ければ、八尋宛の伝言が雅樹のバランスの悪い字で綴られていた。
「声を掛けてもダメだったので先に行きます……いつもは叩いてでも現実に戻すくせに…」
 悪戯大成功、と笑う友人数名の顔が浮かんでは消えた。
 しかし、今更悔いても仕方がない。五限目はサボってしまおうと決め、スケッチブックを閉じて美術室を後にした。向かう先は図書室。時間潰しには持ってこいの場所だ。階下にある図書室に向かっている時、ふと人影を見つけた。
 図書室や美術室、音楽室のある特別棟と、校舎を繋ぐ渡り廊下から見える実習棟の屋上。ぼんやりと空を眺めている黒づくめの服装は、まだ記憶に新しい。
 八尋は自身の口元がゆっくりと弧を描くのを感じた。足音を潜め、アルミの柵に腕を付けた。
「たーぬーきくん」
 声を掛けた瞬間、黒づくめの肩が大げさなほどに跳ね上がった。勢いよく八尋を見た目の色は、伽羅色にきらりと煌めいた。
「やほー。真庭八尋ですけど、佐貫瀧くん…でいいのかな?」
 にっこりと人好きのする笑みを浮かべて問えば、僅か躊躇いながらではあるが頭が小さく上下するのを見て、八尋は笑みを深める。
 まさかこんなに早く見つけることが出来るとは、と自分の運の良さに感謝していた。一方的な初対面は数時間前の電車の中だったのだから。下手をすれば卒業まで顔を合わせることが出来なかったかもしれないのだ。
「まさかの出会いに感謝だねー。ねー、そっち行っていいー?」
 口元でぼそりと独りごちた後、ひらりと手を振って伺いを立てれば、再び躊躇いながらも了承の意を伝えてくれた。
 仲良くなれたらいいなと願いながら、柵に足を掛けて屋上に足を踏み入れる。
 機嫌良く歩を進め、瀧の前に立った。瀧は何とも言えない困惑を呈した表情で八尋を見上げ、逃げを試みようとじわりと体が動いたのが見て取れた。しかし、その背後にあるのは壁。逃げ道など最初から皆無なのである。
 瀧の眉尻が僅かに下がったのを見て、八尋は笑みを深めてその場にしゃがみ込んだ。
「まあ、そんなに怯えないでよ」
「…いや、怯えては…」
 怯えてはいないが警戒はしている。そう言わんばかりの態度に、八尋の口角が更に上がった。
「熱烈な告白をありがとう」
 言い放てば目の前の体が小さく跳ね、八尋に驚愕の眼差しを向けながら息を詰めた。
「こく、っ!?いやっ、あ、あれは…告白では、なくて…」
 絵に対しての心情の吐露だとしどろもどろに紡ぐ瀧に、八尋は笑いながら知っていると頷く。
 瀧は八尋に顔を見られたくないのか、深く俯いた。しかし、しゃがんでいる八尋からすれば、まさに無駄な抵抗である。真っ赤に染まった顔を見上げながら、早く逃げたいんだろうなと相好を崩した。それを見て瀧は膝を抱え込んで顔を隠すしか方法がない。
「あ、あのっ」
「うん?」
 切羽詰まった篭った声に、八尋は首を傾げて見せた。瀧にその姿は見えないのだが。
「お、俺、も…っ、行っていいっすか…っ?」
 告げられた言葉に一瞬だけキョトリとまばたいたが、数秒後にはニヤッと口元を歪める。
作品名:ヒイロとたぬき 作家名:伊坂 仁蕾