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漢字一文字の旅  第三巻

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十二の三  【葛】



【葛】、草冠の下の「曷」は死者の骨を呪霊(じゅれい)とし、激しく祈ることをいうらしい。
そこから喉が渇く意味に派生したそうな。

そんな【葛】、音読みで(カツ)、訓読みで(くず・かずら)と読み、山野に自生する蔓草(つるくさ)のことだ。
当然、渇いてるせいで、蔓(つる)を切っても水分が出ない。
そのためか、古くから茎の繊維で布が織られ、根からはくず粉が作られてきた。

眩しい太陽、夏の大地は日照る。
そして辺り一面【葛】が覆い尽くす。
ふと目を遣ると、古い住居が緑一色に覆われてる。
それは人が住まなくなって【葛】が巻き付いたものなのか……?
いや、そうではない、呪われたのだろう。
【葛】が人間が造った建造物に襲い掛かり、廃墟と化せたと言える。

その【葛の葉】の表側は緑だが、裏側は異様に白い。
昔、安倍保名という男が傷を負った美しい女を助けた。
この女は【葛の葉】(くずのは)と名乗り、やがて安倍晴明を産み落とす。
しかし、女の正体は白狐だった。
それが保名にバレて、女は歌を残して、信太(しのだ)の森へと帰って行ってしまった。
 恋しくば 尋ね来て見よ 和泉(いずみ)なる
 信太の森の 恨み葛の葉

この「恨み」が「裏見」とも解釈され、
夏から秋に吹く風を、葛の葉の白い裏が見えることから【葛の裏風】(くずのうらかぜ)と呼ばれている。
そして、「裏見の風」 −>> 「恨み風」とも言われてるそうな。

ひょっとすると、今も、夏が終わる時節に、
安倍晴明の母の白狐・【葛の葉】が信太の森から【葛の裏風】、いや、「恨み風」を吹かす……、のかも知れないなあ。