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漢字一文字の旅  第三巻

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十一の一  【睡】



【睡】、右部の「垂」は草木の花や葉が垂れ下がる形だそうな。それに目偏が付き、【睡】は瞼(まぶた)が垂れることだとか。
そこから睡(ねむ)る意味になったようだ。

話は変わるが、「笑」の前に「微」がつけば、「微笑み」(ほほえみ)。
ならば【睡】の前に「微」、これは微かな睡眠で、「微睡み」(まどろみ)となる。
女性からの「微笑み」は心をほんわかさせてくれる。一方春うらら、縁側の陽だまりで、本を読む。
そしていつの間にかコクリコクリと微かな睡眠、つまり微睡(まどろ)む。これぞ最高の幸せ気分ということではないだろうか。

その時、手からポトリと。
その落とした本は、なに?
皮肉にも、眠りを醒ましてしまうほど笑える本、「醒睡笑」(せいすいしょう)……だったら面白いだろうなあ。

この「醒睡笑」なる本は、江戸時代初期、京の僧侶、安楽庵策伝が集めた笑話集。
たとえばこんな話しがある。

「亀はいかほど生くる物ぞ」
「万年生くるといふ」
分別あり顔の人、亀の子をとらへて、「今から飼うて見んものを」と言ふ。
かたはらの者あざわらって、
「命は槿花(きんか:朝開き、夕方にしぼむムクゲの花)の露のごとし。たとひ長寿をたもつとも百歳をいでず。万年の命を、なんとして試みんや」といへば、「げにも、わるう思案したよ」と。

要は、人の命は百歳を超えない、亀が万年生きるのをどうやって確かめるのだ、と分別あり顔の人に問い詰めると、確かにそうだなと納得した。そんなホンワカ小話なのだ。

他に
小僧あり、小夜ふけて長竿をもち、庭をあなたこなたに振りまはる。
坊主これを見付け、それは何事をするぞと問ふ。
空の星がほしさに、打落さんとすれども落ちぬと。

さてさて鈍なるやつや。
それほど作が無うてなる物か。
そこには竿がとゞくまい。
屋根へあがれと。

こんな小話、小学生の頃に聞いた覚えがある。
それにしても、それは約400年前の「醒睡笑」だったのか、と驚いている内に……。
眠りを醒ましてしまうほど笑える本なのに、いつの間にかコックリコックリと、ほのかな「笑」で微かな【睡】に落ちて行く。

こんな心地よい微【睡】みに憧れてま〜す。