漢字一文字の旅 第三巻
三の一 【霧】
【霧】、「雨」と「務」の組み合わせ。
なぜ「務」なのだろう?
「務」は、矛(ほこ)をあげて、人にせまり、矛を使いこなす意味だとか。
そして、字の中の「力」は耒(すき)の形で、農業につとめることを言うらしい。
【霧】は以上のような理屈っぽい「務」の上に「雨」だが、それとは関係なく、音が(ム)ということであり、単に「きり」となったようだ。
なんだよ、これ! と文句を付けたくなる【霧】だが、そこには哀愁がある。
特に1960年代、【霧】をテーマにした歌がよく唄われた。
霧の摩周湖 布施明
夜霧よ今夜もありがとう 石原裕次郎
霧のかなたに 黛ジュン
夜霧のむこうに 西田佐知子
霧にむせぶ夜 黒木憲
昭和世代の人たちには懐かしい歌ばかりだ。
そんな【霧】がよく発生するのが京都の亀岡盆地と九州の湯布院盆地。
これが世界ではとなると、ロンドンとサンフランシスコだろう。
1962年
I Left My Heart In San Francisco
これはトニー・ベネットの歌、その時の邦題は「霧のサンフランシスコ」
しかし、今は原題に近い「思い出のサンフランシスコ」となっている。
♪
I left my heart in San Francisco
High on a hill, it calls to me
To be where little cable cars climb halfway to the stars
『 The morning fog 』 may chill the air, I don't care
……♪
『 The morning fog 』 : 朝霧が冷たいけど、私はかまわないわ
1960年代の日本人の皆さん、余程【霧】が好きだったのか、この一説から当時の日本人は邦題を「霧のサンフランシスコ」としたようだ。
そんな【霧】ブーム、また近々に復活して、人たちに哀愁を呼び起こしてくれることだろう。
こんな予感がするのだが……。
なぜならば、今のアベノミクス時代が、景気活況へと躍進した1960年代にどことなく似ているような気がするからだ。
作品名:漢字一文字の旅 第三巻 作家名:鮎風 遊