双子エピソード
拒絶的なサーレス(ユイス)
「「あなたの一方的な価値観を、僕に押し付けないでくれませんか」って、サーレスさんに言われちゃったんです」
「ああ、それで落ち込んでるんだ」
「笑い事じゃないんですよ、ユイスさん! 本当に殺されそうになったんですから! レイスさんが助けてくれなかったら、ほんとに死んでたかもしれないんですよう……」
「さすがに、サーレスくんもそこまではしないと、思うんだけどねぇ」
「いいえ、アレは本気で本気の目でした! もう、ぼくどうしたらいいんでしょう」
「うーん、ナガレくんはどうしたいのかな」
「そりゃもちろん、サーレスさんにもっと真面目になって、もうちょっと、ぼくにちょっかいかけないでくれるようになって、ほしい、です……」
「ああ、こらこら、そんなに沈みこまないでよっ」
「うう、ありがとうございますユイスさん! ぼくのこと理解してくれるのユイスさんだけです!」
「そんなおおげさな」
「そんなことないです! 一番ぼくに親切にしてくれるし、相談すればうんうんって言ってくれるし、ユイスさんは、ぼくの憧れですっ」
「ええ? ぼくに憧れられても、ヘタレになるだけだよ。憧れるんなら、ほら、セイルさんとか、かっこいいじゃない」
「まあ、セイルさんは確かにかっこいいですけど、男のぼくから見ても惚れぼれしますけど、でも、なんかちょっと遠すぎるって言うか」
「ああ、まあ、そう、かもね」
「ユイスさんはその点なんか身近な感じがするんです」
「あはは……。褒められたと思っておくよ」
「あ、ほんとですよ! ぼくはユイスさんのことちゃんとかっこいいって思ってるんですから! 優しいし、でも自分でちゃんとやりたいことやっててすごいなぁって思うし。それに何より、ユイスさんのお菓子はすっごいおいしいんです」
「それはありがとう。僕も、僕のつくった物をおいしいって言ってくれる、ナガレくんは好きだよ。サーレスくんも、ね」
「ああ、サーレスさんってそういえばすごい幸せそうな顔してごはんとかお菓子とか食べますもんね」
「うん。そう。ほんとにおいしいって思ってくれてるんだなぁって」
「そうですねぇ。ご飯の時だけちゃんと帰ってきますもんねぇ。他の時にも、ちゃんと一緒にいてくれればいいのに」
「ナガレくんはサーレスくんのそういうとこが不満なの?」
「だって、何かしようとしても一人だけすぐどこか行っちゃうし、サボるし、ぼくの事いじめるし、なんでですか、って問い詰めても逃げられるし、挙句の果てには、殺されそうになったんですよっ!」
「まあ、サーレスくんの気持ちも、分からなくはないけどねぇ」
「え!? ユイスさんにとってもぼくってうっとうしいんですかっ!?」
「いや、そうじゃなくって……。まあ、ぼくもレイと、似たようなこと、あったから」
「レイスさんと? うそでしょう? だって、レイスさんとユイスさんって傍から見てもすっごい仲よさそうじゃないですか。 確かにまあ、レイスさん怖いですけど、でも、今日ぼくのこと助けてくれたのだってレイスさんですし、ヴァイスくんと一緒にいるとことか見てればほんとはいい人なんだなって思うし、サーレスさんとは、違いますよ」
「どうして違うって思うの?」
「どうしてって、レイスさんはぼくのこと、イジメないですし」
「それだけ?」
「それだけって、ぼくには切実なんですよ!」
「ごめんごめん。そういう意味じゃないんだって。うーん、なんて言えばいいのかな。たぶんね、レイスはナガレくんが思ってるようなタイプじゃないんだよね、実は」
「どういうことですか?」
「うーんと、限りなく、レイスはサーレスくんに近いタイプだと、思うんだよね。むしろ、レイスの方がもっと怖いかもしれない。下手をすれば、ナガレくん、実はもうとっくに、殺されてたかもしれないよ。レイスに」
「え、え!?」
「レイスとサーレスくん、仲、いいでしょ?」
「え、ええ、まあ、なんでかなって思ってましたけど」
「今でこそ、レイも丸くなったけどね。昔はもっとずっととんがってたし。僕だって下手に近づいたら斬られるんじゃないかなって、怖かったしね」
「そんな」
「でも、ほんとの事だよ。理由はまあ、いろいろあるんだけどね。でも、怖かったのは僕だけじゃなかったんだ。むしろ、レイスの方がたぶんずっと、怖かったんだと思う」
「どういう意味ですか?」
「レイはね、人を傷つけるのが、怖かったんだ。ずっと。人っていうか、身近な人かな。たぶん。だから、近づいてくる人間は身近な存在になる前に遠ざけようとするし、それ以上近づいてくるようなら遠慮なしに攻撃してたんだと思う。でも、ぼくって、レイにとって、兄弟って言う時点で、身近じゃない? レイにはどう接すればいいかわかんなかったんだよね。きっと」
「でも、でも兄弟なんですよね? ずっと一緒に暮らしてたんじゃないんですか?」
「まあ、いろいろあったんだよ。7年、離ればなれだったからね」
「そう、なんですか……。なんか、ショック」
「そう?」
「レイスさんとユイスさんって、ほんと仲いい兄弟なんだって思ってたから。ぼく、兄弟いないですし」
「兄弟だから仲がいいってわけじゃないと思うよ。兄弟だって、ある一定のラインでは、他人なんだし。でも、そこ乗り越えられたから、今のぼく達は、あるのかな」
「そうなんですか。なんかぼくにはわかんないすごい経験とか、あるんだろうな」
「たいしたことじゃないよ。僕が、レイを一瞬でも信じることができなくなっただけ」
「え」
「レイはずっと信じてくれてたのに、ぼく馬鹿だったんだよね。レイは変わっちゃった。僕の知ってるレイじゃなくなった。そんな風に、思っちゃった」
「そ、それで?」
「レイは僕の前から消えたよ」
「そんな!」
「うん。僕はだからレイを探したんだ。一回疑ってるのに、それでも追いかけて行くなんて、虫がいいって、自分でも思うけど。そしたら、レイなんて言ったと思う?」
「なんて言ったんですか?」
「独りにしないでくれ、って。お前が信じてくれなかったら、俺は誰を信じればいいんだ、って。ほんとに悪いことしたなぁって思うんだ」
「なんかすごいですね」
「ただの恥ずかしい昔語りだよ」
「でもすごいな。羨ましいです」
「ナガレくんは、いないの? 心から信頼できるような人」
「うーん、おじいちゃんは死んじゃったし、今はいないのかも。でも、ここの人達は大好きです。あったかいし。優しいし。家族みたい」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しい」
「でも、だからかな。なんか、サーレスさんだけ違うんですよね」
「そうかもね。でも、なかなか難しいと思う。無理させちゃ可哀想っていうか」
「可哀想なんです、か?」
「ナガレくんにはわからないかな」
「よく、わかりません。家族って、いっぱいいた方が、楽しいじゃないですか。寂しく、ないじゃないですか。一人なのは、寂しいですよ」
「ナガレくんはいい子だね」
「へ!? い、えぼ、ぼくは別に!」
「でもね、大勢の中に、優しい人達ばっかりの中にいるときの一人の寂しさって、たぶんほんとの一人でいる時より、ずっと寂しいんだよ」
「?」