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逃げた男

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 水木と浅尾は向かい合った。水木が頷くと、浅尾もうなずいた。分かった、と水木が言ってから二人は立ち上がると同時に小走りする小さな足跡が聞こえて、ばっと通路を確認すると夏美が階段を下りていくのが見えた。
 水木と浅尾が降りると、夏美が自分の母親に堅気ってなーに? と聞いていた。妻は水木と浅尾に振り返って、俯いている二人を確認すると慌てて母の許へ走った。

 水木と浅尾は急いで西を連れて裏口から出た。車へ向かったがそこには兄が待機していてどうにも車に乗ることはできなかった。仕方がなく三人は走って近くの駅へ向かった。しかしどう考えても遠い道のりだった、少なく見積もっても六時間はかかる。そこで水木は二キロほど先にある後藤家の車を借りて駅へ向かうことを提案した。そうなると一番の近道を歩けば兄が追ってきそうだということで車が走れない田んぼの間の道を走ることにした。一キロ走ったあたりでやはり兄が追ってきて車を途中で止めて田んぼの間を走ってきた。
 十分ほど走っただろうか、三人も兄もばててきたがちょうど後藤の家へとたどり着いた。そこで水木は兄を止めると言って立ち止まり振り返った。浅尾と西は二人で車を借りる為に急いで後藤を訪ねたが、家の前に不審な黒い車が停められていた。チャイムを鳴らすと、中から後藤が現れたが、焦った表情をしていた。口に人差し指を立てて黙るように指示した後、裏にある車を指さして鍵を投げてきた。浅尾はそれを受け取り、急いで西と一緒に車に乗り込んだ。乗り込む途中居間の窓から西の部下が見え、それを見つけた部下たちは急いで家を出て車に乗り込んだ。
 浅尾は黒い車がつけてくればこのおんぼろ車では逃げられないことを感じ、裏手の入り込んだ道を走った。黒い車の方は地理感覚がやはりすぐれておらず、途中で田んぼにはまったりして走るので精一杯であった。浅尾と西はそれを見てしてやったりと言った顔をしたが、同時に浅尾の車もまた田んぼに突っ込んでしまった。二人は荒々しく車を飛び出して、残り数キロの駅へ向かった。浅尾は時計を確かめて、終電が後数十分で来るのを確かめて、できることなら自転車か何かを借りられればと思いながら隣家を探した。少し走ったところで発砲音が聞こえた。部下の二人が車を降りて追いついてきたのだ。今回は外したが、近寄ってくる部下に対して浅尾は尻込みしてしまった。それを見て西は鞄から拳銃を抜いた。西は浅尾に振り向いて拳銃を向けた。浅尾を撃つのが早いだろうか、西は考えた。自分がまだ味方であることを証明するにはそれしかないのかもしれない、そう思っていた。その間部下が発砲しないのもその証拠かもしれない、ならばそれに乗ったほうがいいのではないだろうか。もしかしたら組長も怒っていないかもしれない。そう思って拳銃を浅尾に向けていた。しかし西はすぐに拳銃を部下に向けて、発砲した。一発が一人の肩に命中して拳銃を落とした。もう一人も撃ち返したが拳銃が西を向いてちらっと光った瞬間西は身を屈め弾を避けた。西はまたその部下に対しても撃ち返したが、今度は外した。何度か撃ち合ったが、お互いに相手を外し続け、十メートルほど距離になったところでお互い弾丸が底を尽いた。西は拳銃を田んぼに投げ捨て、相手も同じく拳銃を投げ捨てた。
「久しぶりの喧嘩だなあ、俺に勝てると思ってんのか? あん?」
「西さん、申し訳ないっすけど、力ずくでも一緒に来てもらいますよ」
 殴り合いになった。西は初めて本気で人を殴った。いつもなら申し訳程度に人を殴った、単純に優位に立つだけの為の拳だった。しかし今回の喧嘩はそんな単純なものではなかった。一発一発の拳に、蹴りに、殺意が籠っていた。そして何より、西には浅尾を守りたいという気持ちがあった。二人がボロボロになるころ、嫌気が察した部下は懐からナイフを取り出して西に向けた。西はそれを見て、これで終わりか、と脱力してしまった。
「西さん、俺にあんたを殺させないでくださいよ!」
「どうせ戻ったって殺されるんだ、ならお前に殺される方がいいさ」
「くそっ、西さん!」
ナイフ相手に勝ち目はないだろう、そう思ってナイフを振りかぶった相手にストレートをかましたらあっさり倒れてしまって、とりあえず西は勝利を得た。
 西は浅尾に戻り浅尾を立たせた。浅尾はありがとう、といってその手を強く握った。そして二人で駅へ向かおうと振り返ったところでまた発砲音がした。西ではなく、隣に立っていた浅尾が倒れた。車をどうにかする為に残っていたもう一人の部下が発砲したのだ。部下は間違えたことに気づきまた発砲したが、西は急いで浅尾をかばった。何発か弾は発砲され、それは全弾、西の背中に命中した。
 西は浅尾の背中を見たが、穴は肩に空いていることに気づいた。これだったら浅尾は死なないだろう、そう安堵した途端腕の力が抜け、浅尾の隣に倒れこんだ。部下が走って近寄り、西の傍らに座り込んだ。
「くそっ、こんなはずじゃなかったのに! しっかりしてくれ西さん!」
 そう言って部下は西をゆすったが、西はそれに応答することは無かった。少ししてからパトカーの音が聞こえ、部下は警察に囲まれた。車のライトで倒れた浅尾と西、そして西の亡骸の上ですすり泣く部下が照らされた。
作品名:逃げた男 作家名:木戸明