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正しいフォークボールの投げ方

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第五球 投げるコースはど真ん中 -2-



 いつもより大きめの歓声がグランドに響く中、大府内高校の選手たちがグランドに出て、イニング前の準備練習を行なっている。後は試合開始(プレイボール)を待つだけである。

 大正義高校の先発出場選手(スターティングメンバー)は、ナガシマが発言した通りに一、二年生が主体の構成だった。

▽大正義高校
 一番 ?二塁手 シノヅカ和典 (二年)
 二番 ?遊撃手 カワイ昌弘  (二年)
 三番 ?左翼手 タカハシ由伸 (一年)
 四番 ?三塁手 ハラ辰徳   (二年)
 五番 ?右翼手 ヨシムラ禎章 (二年)
 六番 ?一塁手 ナカハタ清  (二年)
 七番 ?捕 手 アベ慎之助  (一年)
 八番 ?中翼手 オガタ耕一  (二年)
 九番 ?投 手 クワタ真澄  (ニ年)

 そのメンバー構成も然る事ながら、大正義高校のベンチに座している監督の姿を見て、大府内高校の部員たちはさらに憤りを増していた。

 大正義高校の監督はミズハラという人物なのだが、ミズハラはベンチに居なかったのだ。監督が座るべき椅子には、打撃の神様と称されており四年生で唯一同行していたカワカミが座していた。つまり、一選手であるカワカミが監督を務めているのであった。

 詳しい説明では監督のミズハラが体調を崩したので、代行という形で主将のカワカミにお鉢が回ってきたのだった。
 しかし、そんな理由は大府内高校の部員に関係無い。下級生だけの選手に監督も選手。コケにされているとしか思えないのも道理である。

 大府内高校の部員一同は、気合もやる気も最高潮であった。

▽大府内高校
 一番 ?遊撃手 ノムラ謙二郎 (二年)
 二番 ?中翼手 ウチカワ聖一 (一年)
 三番 ?右翼手 オオタ卓司  (三年)
 四番 ?一塁手 オオシマ康徳 (二年)
 五番 ?左翼手 カツラギ隆雄 (三年)
 六番 ?三塁手 オカザキ郁  (二年)
 七番 ?捕 手 ワダ博実   (三年)
 八番 ?二塁手 アナン準郎  (三年)
 九番 ?投 手 カワサキ憲次郎(二年)

 一方、大府内高校の先発出場選手は、いつものレギュラーメンバーだが、先発投手はイナオではなく、志願した二年生のカワサキがマウンドに登っていた。

「大正義だが最強だが知らんが、オレたち舐めたことを後悔させてやる!」

 意気込みを吐くカワサキを、ベンチから伺うナガシマ。

「おやおや、今日はサイちゃんだと思ったんですけどね……」

 独り言のように漏らした言葉に対して、隣に座っていたカワカミが答える。

「いや、イナオだったと思うぞ。ウチと戦って勝ちに行くと考えるなら……」

「えっ!? それじゃ、なんでサイちゃんが先発じゃないんです? まさか怪我?」

「多分、ウチのスターティングメンバーを知ったからだろう。それにナガシマ、イナオにその事を話しただろう」

「あ、すみません。うっかり……」

「作戦やチーム事情をうっかり話すな」

「はいはい、解りましたよ。哲さん」

 カワカミは鋭い視線をナガシマに刺す。

「ナガシマ。代行とは言え、今オレは監督だ。上下関係の規律は守れ」

 すごみをきかせた言葉に、ナガシマは背を真っ直ぐに伸ばし、さっきとは打って変わって「はい、解りました!」と凛とした返事を行った。

 ナガシマを睨んだ目つきのままカワカミは、マウンドで投球練習をしているカワサキを見つめ、

「カワサキか。確かに二度ほどウチ相手に良いピッチングされたが、三度目の正直だ。今日は打ち崩して貰わんと。で、さっさと本物のエースを引きずり降ろして、ちゃんとした練習をせんとな」

 周りに聴こえるように独言し、選手たちに発破をかけたのであった。

 投球練習が終わり、『一番、セカンド、シノヅカくん』のアナンスコールと共に、シノヅカが左打席に入った。

 審判が高々と「プレイボール!」と宣言し、大府内高校と大正義高校の試合が開始されたのである。

 先発のカワサキ。お得意のシュートを軸にして、立ち向かっていく。カワサキのシュートはイナオのシュートと劣らない変化を見せるが、それを一番シノヅカは三塁線に流し打たれ安打にされてしまう。

 続く二番のカワイに難無くバントを決められて、走者を二塁に進塁させた。

 三番タカハシ。一年生と言えクリーンナップの一角を任されていることもあり、カワサキは注意して投げたが、タカハシに初球の直球(ストレート)を打たれてしまう。

 右翼(ライト)への大飛球。本塁打かと思われた軌道はフェンス手前で失速し落ちてきて、右翼手のオオタが捕球する。だが、二塁から三塁へのタッチアップするには充分離れた距離。シノヅカは三塁へと無事に進塁した。
 二死ながらも、走者が三塁。そして次の打者は、

『四番、サード、ハラくん』

 アナンスコールが響くと、一際大きな歓声があがった。

「ハラくんは、私の跡を継ぐ四番バッターですからね。ここは打って貰わないと」

 ナガシマは腕を組み、期待を寄せる言葉を呟く。大正義高校の四番は特別なものであり、誰それとなれるものではない。大正義高校の四番の重圧と羨望は、現正四番打者であるナガシマがよく知っていた。

 走者が得点圏にいて打者は四番。期待することはただ一つ……点を取ること。

 ピンチを前にカワサキは、打席に立ち悠々に構えるハラを睨みつける。

「ハラか……。次世代の四番か知らないが。オレだって、イナオさんの後を継ぐ大府内のエースだ!」

 カワサキの渾身の直球が内角高めに決まる。

 しかしハラは目で球を追わずバットを構えたまま、ただカワサキを睨みつけていた。

 捕手のワダはハラの様子を見て、

『狙い球はシュートか……』

 打とうとしている球種を感じ取る。四番打者に求められることは、相手投手を打ち砕くこと。それが相手の得意球であれば、受けるダメージは倍増である。

 狙い球が解っているのなら、あえて投げないという選択肢がある。ワダは外角のコースにカーブを要求する。だが、カワサキは首を振った。

(ワダさん。ここはシュートを投げさせてくださいよ。相手がシュートを待っているのなら、それを越えるシュートを投げて、逆に打ち取ってやりますよ)

 心の声を視線でワダに送った。

 そんなカワサキの意気込みを感じ取ったワダは小さく息を吐く。長年捕手を勤めているワダは、投手が投げたい球を投げさせるのが一番良いと把握している。

 そもそも投手というのは、お山の大将でワガママな生き物なのだ。投手に気持ち良く投げさせるためには、ある程度許容しなればいけなかった。

(解ったよ。まだ初回で、まだ疲れてはいないし、コントロールミスは無いだろう)

 その要求に応えて、ワダはサインを出す。

 カワサキは頷き、投じる。球は大きくシュートし内角に食い込んでくるが、ハラは打って出た。

 ハラはコンパクトに腕を畳みながら腰を回転させると、バットと球がぶつかった。

 打球はふらふらと力無く舞い上がったが、三塁手の頭を越え、左翼線上にぽとりと落ちる――ポテンヒットとなった。

「なっ!」