そばにいて
「好きな人なんて簡単に見つかるわけないのに、好きな人のことをぶっ殺してやりたいと思ったり、実際そういうことをしてしまう人もいるから事件は起こる訳だし、私もその一端に居ながら現実感がなくて、でも本田さんが好きという気持ちはなかなか消えないっていうのが、実際問題ものすごく不便」
「じゃあ、私と一緒に婚活行くか」
「婚活とか合コンとか、なぜだか生物的に不自然な出会い方をすると警戒心ばかりが働いて、心が疲れて恋どころじゃなくなる」
「面倒くさいな」
「面倒くさいんだよ」
何となく支離滅裂になっているみすずの言葉からやっと私は正気付いて、ワインボトルの残りを目で測ったらほとんど入っていなかったので合点する。すきっ腹に急ピッチで飲んでいたので、思いのほか酔っていたようだった。
シャワーは明日の朝浴びることにして、服を脱ぎ捨ててベッドに入った。みすずと並んで横になると肩と肩がひっついて、窮屈だったけれど心地よかった。二の腕を目の前に持ち上げて、この肌のきめのこまかさを顔に移植できればなーと二人で真剣に話した。
明日の仕事のことを考え、どうしても4時間は寝ておきたいな、と頭の奥で考えながらみすずを見ると、もうすでに目を閉じていた。その静かな寝顔は私に、棺に入ったあおいの顔を思い出させた。「ねえ」と言って私はみすずの手を握りしめた。
「また一緒にローラースケートしたいね」
みすずやあおいが声をあげて笑う瞬間を、もう一度見たかった。明るい陽射しの中で、先も後ろも気にすることなく、ただ口を大きくあけて空気を吸い込み、私たちが笑う姿を想像する。私たちは腕を組んでくるくる回る、ローラーが回転して遠心力が働いて、髪が外側になびき、体全体が円を描く軌道に乗っていた。私はみんなを傍に抱き寄せる。みんなのこと、ぜったいに忘れない。だからずっと一緒にいてくれるよね?
みすずは静かな寝息をたてている。目を開けているのは私ひとりだ。記憶は雪のようにきれいに天井から降ってきたりはしなかった。私のうしろにひっそりと、消えない足跡のように点在し続け、息を止めてただそこにあるだけだ。