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りそう

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秋の日の公園。
あいつとあのこは 互いに寄り添いながら季節を過ごしてきた。

出逢いは春。
柔らかな陽射しの中 小さく生まれたあのこ。
まだ誰にも気付かれないときから あいつは 喜び 慈しみ そっと見守っていこうと決めた。あのこが手を広げ、お陽さまの温もりを握りしめる様子に あのこが元気に育つのが嬉しいと あいつはそっと手助けする。

暖かくなる陽射しの中 青春の頃を迎えたあのこ。
あのこが誰よりも美しく輝くように あいつは一番背伸びをしてみせる。一番美しい輝きを 一番綺麗な潤いを 一番優しい空気を あのこの為に あいつは精一杯あげる。 

暑い陽射しの中 凛と成長し強く感じられたあのこ。
あいつは その姿の後ろで安らぎを感じながら体を休める。与えられるものを絶やさないように気遣いながら あのこの作る優しい居心地の中で あいつは微笑んでまどろむ。 

ほんのり暖かな陽射しの中 しとやかな表情のあのこ。
いつしか美しく色づいたあのこを あいつはもの哀しく見つめる。ずっと移り行くあのこの変わり身を一番近くで見つめ、触れてきたあいつだからわかる。

その時が訪れようとしている。 

ともに 季節の風に揺れながら、微笑み合い、励まし合い、そっぽを向いても 離れずに 大きな命のもとで いっしょに過ごしてきた。

それなのに・・・
あいつとあのこの間に 冷ややかな風が通り抜ける。
「もう いってしまうのか…」そう言葉にしたなら あのこは どう答えるのだろう。
あいつは もどかしい想いを 何度も押さえながら あのこの手を離せないでいる。
離れたくない。それが 定めだとわかっていても動揺が止まらない。
日ごと 美しく染まるあのこの姿を 赤く染まる夕陽と重ね、あいつは思案する。
いくら考えても 焦っても 成すすべなどないと あいつは諦めの溜め息に辿り着く。 

りそう ・・・ 理想?

いや あいつ と あのこ の間にあるものは……

りそう ・・・ 離層。

親なる樹木の あいつは枝。 あのこは葉。
あいつの腕の中で生まれた小さな葉っぱのあのこは、巡る季節の中で しっかりとあいつに掴まっていた。あいつに捉まえられていた。
幸せだった? あたりまえに居てくれる存在として過ごしてきた。
自分の変化など気にしないで 自然のままにあいつと過ごしていたつもりだった。

でも、その繋がりを切らなくてはならないと知って あのこはしだいに変わっていく。あいつに気付かれないように あいつを気遣いながら少しずつ 少しずつ 変わっていく。

美しく色づいたのは あいつへの想い。そして 変化を紛らわす為? 最後の優しさ?
そんなことは あいつにはわかっていることなのに 季節をひとつしか巡らないあのこには 精一杯の思いやりのつもりなのだろう。

あいつとあのこが 離れ分かれる時が訪れた。

繋ぐ境界線をひとつひとつ壊していく。自らの細胞を壊していく。
ひとつ分離する。あいつからの何かが届かない。
ひとつ崩壊する。あいつとの何かが薄れていく。

そして、あのこは 風に舞った。

「綺麗な紅葉ね」

あのこは 小さな手に拾われて 暖かくなった。
その様子を 上から見守るあいつは また出逢うのだろう。


     ― 了 ―
作品名:りそう 作家名:甜茶