フェイク・ブラッド
「何これ? 合成? 編集?」
「いや、ほとんどの証拠物件が宇宙空間で、できることが少なかったんで、この映像は飽きるほど調べたよ。確かに、リアルタイムにその場で連続して録画されたものだった」
「すごいじゃない。大事件じゃない。やっぱり、これ、本物の怪盗ミルフィ~ユじゃないの?」
「いや、大事件じゃないどころか、大騒ぎにすらならなかった」
「へっ?」
「トゥーカの連中は被害届も出さずに責任の押し付け合いをして空中分解してしまったよ」
「あれ? でも、被害届を出さないと保険金がもらえないんじゃないの?」
「いや、保険には入っていなかったらしい」
「えぇっ! そんな、バカな」
「ケチったんじゃないか?」
「……ねぇ、空中分解した後のトゥーカの連中ってどうなったの?」
「さぁ、知らんよ、そんな事まで」
直美はタブレットに飛びつくと、慌ただしく何かを調べだした。
「やっぱり、トゥーカの連中、みんな、名立たる大企業にヘッドハンティングされているわ」
「なんだって? どうして、そんなことに?」
「今、ファンキー・バンクの仕様書を見てるんだけど物凄いスペックよ。こんなものを作ったチームのメンバーなら欲しがられるかもね」
「あいつら、そんなに、すごい奴らだったのか? そんな風には見えなかったが……」
それを、聞いた直美はクスッと笑った。
「さすが、おじさま、人間を見る目があるわ。そう、彼らの内、今、活躍しているのは、AR分野で1人いるだけ。衛星関係なし」
「どういうことだ?」
「タネ明かししましょう」
「えぇっ!」
「ファンキー・バンクなんて、初めから載ってなかったの」
「えっ? そんな? だって、映像に……」
「あれは、良くできたARよ」
「えぇっ! でも、ARを表示するにはARマーカーが必要だし、途中で消えたのは?」
すると、直美は、自分の二の腕を見せた。先ほどあった刺青は消え失せていた。
「消える塗料でARマーカーを床に直接描いたのよ。宇宙では鑑識のような捜査はされないと踏んでね。ノイズの後に消えたのは偶然だけど、それほど、危険な賭けじゃないわ。ノイズは、かなりの頻度で入るでしょうから。他のシステムその他の開発は、すべて自分たちがやってたんだから、なんだって自由にできたでしょうし」
「動機は?」
「もちろん、ヘッドハンティングされるためよ」
「そんな事のために、危険を冒したのか? 金も結構かかってるぞ?」
「チャンスさえ掴めば、のし上がれると思ったんでしょうね」
「でも、ファンキー・バンクが、そんなにすごいのなら、自分たちで何台でも作って売ればいいじゃないか」
「だーかーらー、ファンキー・バンクなんて、初めから存在しないのよ」
「なんだって?」
「正確には、仕様書だけ存在するわね。リアリティーをギリギリ失わないところまで夢を追った仕様書がね」
「じゃあ、この事件は、奴らが大企業にヘッドハンティングされるためだけの……」
「そ、大芝居だったってこと」
「そんな、才能もないのに、チャンスだけ掴んだって……」
「彼らは、才能だけじゃなくて、血液まで“フェイク”なのかもね」