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ミルクの化石とチェックの棺

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 どんな顔で、どんな様子で、あの子はこの手紙を書いたのだろう。きっと、あの善良そうな恵比須顔、ムツによく似たあの顔で、本当に私に感謝の気持ちを抱きながら文字を書き連ねたに違いない。

 だってあの子は、ムツにぴったりの、優しくていい子だから。

 封筒を手に取ると、やはり初めに感じたように、カサカサとした手触りが不快で、不安になった。

 私は封を開けようとして指をかけたが、思い直してそれを止めた。赤いチェックのそれは、まるであの日の棺のように、私の前に存在している。そんなはずはない。そんなはずはないのに、それには“死”に擬態した何かが隠れているかのようで。

 私はおもむろに立ち上がり、部屋の中ほどへと進んで、棚に飾った鉢植えを手に取る。夏には赤い、鮮やかな花を咲かせていたグロキシニアの鉢植え。今は、土の中に球根が入っているだけで、目に見えるのは茶色い土だけだ。

 その土にかじかんだ指を差し入れる。室内の比較的暖かい所に置きなおしていたものの、土はひんやりと冷えている。さくり、さくり、と土を掻き出し、さらに深い地層へと指を潜らせる。

 球根が頭を覗かせるほどの深さになったところで、私は土がついたままの指でチェックの封筒を摘み上げ、鉢植えの穴の中にさしこんだ。

 丁寧に、丁寧に土をかけ、その派手な模様が隠れるように何度も何度もならしていく。それは埋葬だった。私の、私にとっての、埋葬。あの日、生きたままのムーちゃんを埋葬したように、私の生きた気持ちを埋葬していく。

 願わくは、2度と土の上に現れないように。

 願わくは、グロキシニアの花が咲いて、地下の暗闇を覆い隠してくれるように。

 願わくは、ムツには私の美しい花だけを見てもらえるように。

 そう祈って。