小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一本だたらは恋をする

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
一本だたら恋をする



「――流石にキュクロプスが来るとは思わなかったわ」
 今私の前に座っているのは、ギリシャ神話に登場する単眼の神、キュクロプスの末裔、単眼族の少女である。カフェの窓際席に私と彼女は座り、ケーキとコーヒーを嗜んでる。
 隣の席では女子高生が週末の予定を話し合っている。映画とか、あとは心霊スポットなんかもよさげ。なんて、楽しそうに談笑していた。
「あ、いえ、キュクロプスじゃなくて一本だたらの方です」
「そっちだったかー」
 神様じゃなくて妖怪だったか。
 まあ、ここは日本だし、むしろ一本だたらとか一つ目小僧の方が正しいと言えばその通りだ。あまりにどうでもいい話ではあるが。
「で、その一本だたらさんが何用で?」
「あ、はい。えーっと、単刀直入に。あのですね、私、ある人間の方に恋をしてしまいまして……」
 そう言って、一本だたらの少女は頬を染めた。
「ごめん、ちょっと私には手に負えないわ……」
 日曜の昼下がり。駅周辺のカフェテリア。私は一本だたらの女の子、真菜子とガールズトークを繰り広げていた。
 あー、うん。やってることは普通なのに、相手が一本だたらというだけでジャンルが青春恋愛から幻想怪奇、良くて怪奇ファンタジーに様変わりするというのはどういうことなんだろうか。
「待ってくださいよぅっ! 貴方しか頼る人がいないんですよぅっ! 私を分かってくれる『人間』なんて貴方だけなんですぅっ!」
 そう言って、一本だたら(女)はその大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を零す。
「そーは言われても、こちとらこの人生、男と過ごしたことのない非リア充なんだよっ! 経験ないからアドバイスも何もないの!」
 自分で言ってて悲しくなってきた。
 ――結局、愛無きところには哀しか残らぬ訳だ。
「……ところで、その情報をどこから仕入れたワケ?」
「豆狸さんから……」
 あの狸……いつか狸汁にして食ってやる……。
 さて、では、そろそろ自己紹介をするとしよう。
 私はよーこ。霊感ならぬ妖感がある人間だ。

 自称、霊感持ちの人間は山ほどいる。本物もいれば、偽物もいる。どうあれ、彼らは幽霊を見ることができると言われている。
 私の持っている妖感は、幽霊だけではなく、妖しの類――要は妖怪も見ること、いや、認識することができる。
 普段妖怪や幽霊というのは、人が感じることができない存在だと言われている。見ることができない。よしんば見ることがあっても、それが妖怪だと気付かない。妖感を持っていない人間からすれば、そこにいないモノ、そこにいるが気にならないモノ、そこにいるが怪異として認識されないモノ、その他の何れかとして扱われるという。
 例えば、カウンター席でケータイを持っているOL。そのOLは今、上司のセクハラ染みた視線に耐えきれない、と通話相手に愚痴っているが、彼女は口裂け女である。アレは典型的な『人間社会適応型妖怪』であり、人間の中で暮らし、収入を得ている。
 そして私の隣をウロウロしながら私のケーキをモノ欲しそうに見つめる毛布お化け。こっちは『非視認型妖怪』だ。人間からは見ることができないし、その存在を知覚されることもない。
 彼女、一本だたらの場合は、上記の『人間社会適応型妖怪』に分類されるだろうか。
 私たちの社会には多くの妖怪が紛れ込んでいる。そして、たまに我々に悪戯を仕掛けてきたり、命に関わる事象、災害に携わったりする。ただ、それを私たちは視認、または知覚することができない。
 私はある日突然、妖感が目覚めたのだ。なんの布石も伏線もなく、本当に唐突に。ただの独身フリーター女の私に対しての、神からの唐突なプレゼントだった。きっとその神は困っている私を見ながら実況スレに書き込みしていることだろう。非常に腹立たしい。
 最初に関わった狸――妖怪豆狸曰く、私は「ズレてしまった」という。結局その狸は食いモノをたかるだけたかって、肝心なことを語らずに逃げ去ってしまったが、どうやら被害は唐揚げ一パック、フランクフルト半分、アメリカンドッグ一つでは済まなかったらしい。
 ――以上、説明終わりっ。

「羊羹、食べたくなってきた」
「い、いきなりなんなんですかっ!」
 いや、どっかの誰かに説明をしていたら、ふと羊羹を食べたくなってしまったのだ。もうちょっとカッコイイ名前はなかったものか……。
「それより、一本だたらって、あの丸っこい妖怪のことをイメージしてたんだけど……現実は違うモノなんだね」
「あ、いえ。アレはアレでかなり正確です。流石、水木先生と言えます。一本だたらというのはいわば分類のようなもので、ゴキブリにもクロゴキブリからチャバネゴキブリ、ワモン、グリーンバナナローチと色々いるでしょう?」
「とても分かりやすい説明だけれどなんでゴキブリで例えようと思ったかなぁっ!」
 背中がむず痒くなるので是非ともやめてほしいところだ。
 一本だたら然り、あとは一つ目小僧に一つ目入道。割とそう言った昔話は世界中に散見される。スコットランドのファハンだったり、北欧神話の主神、オーディンも隻眼の神である。
 こういった手足目など二つある器官のうち片方しかない神や妖怪の類を、文化人類学者ロドニー・ニーダスはひっくるめて『片側人間』と呼んだという。つまるところ、『片側人間』、という大枠の中に、『一本だたら』とか『キュプロクス』があって、その一本だたらの中にも彼女のような人に近い形の一本だたらや、水木風味のまるっこい一本だたらもいるわけなのだろう。
 さて、話が逸れてしまった。閑話休題、閑話休題っと。
「で、君は一体どういう結末を望む訳? 付き合いたいの? 仲良くなりたいの?」
「孕みたいです」
「直球ど真ん中どころか危険球だよそれ!」
「よーこさん、赤くなっちゃって。うぶですねぇ、もう」
「きさんなめてんのかこらぁっ!」
 こいつ、殴りたい。今すぐ殴りたい。
「女に生まれたんだから、そりゃもう孕むしかないでしょ。産めよ増やせよ酒池肉林です」
 この子、下ネタ好きの性格なのか。滅茶苦茶扱い辛い。
「どーでも良いけど酒池肉林ってそんなにエロい言葉じゃないから」
「でもなんかエロい語感ですよね、特に肉という言葉にエロスを感じます」
「中学生と会話している気分になるわぁ」
 それだと特上肉とか霜降肉とか豚肉、果肉でも欲情してしまうのだろうか。私は性欲より食欲しか湧かない。
 その旨を一本だたら真菜子に問うと。
「ああ、エロいですねぇ」
 ――と返ってきた。もうダメだこいつ。
 さて、話を元に戻そう。正直この子の相手をするのが疲れてきたところだ。
「その男の子というのが、隣町の喫茶店でウェイターをやってる鈴木君です」
「あー、うん。分かんないや」
 喫茶店でウェイターをやってる鈴木君は、この日本でどれ程いることだろうか。そしてこの地域だけでも相当数のウェイターの鈴木君がいそうである。
「もう、なんというか、一目惚れデス。業務用掃除機並みの吸引力でずごごとやられマシタ」
「今さっきから例え話がなんか違和感あるよね、君」
作品名:一本だたらは恋をする 作家名:最中の中