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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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エピローグ


「うかない顔をしているな。」
 執務室に入ってきたメイを見て、アンジェリカは開口一番そう言った。
「まあね。あたしらはちょっとユリウスを買いかぶってたかもしれない。・・・まあ、あいつもまだまだお子様な歳だし、しかたないんだけど。」
 メイはソファーに身を投げだすと、投げやりにそう言った。
 アリスとシエルが街を出る前に、アリスの使いだという女性がアンジェリカの屋敷に手紙を持ってやってきた。
 彼女の持ってきた手紙には、ギリギリのところで牢に戻るのを失敗してしまった経緯やこれからの二人の行動方針が書いてあった。
 一度軍を離れて敵の情報を集めるというアリスの案に、アンジェリカとメイは賛成で、ルーも賛成だった。
 どちらにしてもアレクシスとエドが戻ってこないことには行動が起こせないわけで、だったら自由に動ける機会のある人間が偵察をするべきだという判断からだ。そして、その事はアリスの恋人でありシエルの主君でもあるユリウスにも話すことを決めた。ユリウスに話をしたあとで、現在実質的に軍を切り盛りしているアンドラーシュとジゼルにも話をする予定だったが、まずユリウスに話す時点で躓いた。話を聞いたユリウスが、自分も後を追うと言い出したのだ。最終的に体力のないユリウスは街を出る前に捕まえることができたが、いつまた抜けだそうとするかわからないので半分幽閉しているような状態だ。
「なるほど。王子はまだ若いからな。」
 メイの話を聞いたアンジェリカは仕事を進める手を止めてメイの正面のソファーに腰を下ろした。
「アンドラーシュ殿やジゼル殿には?」
「一応話はした。あの変態はアリスとは古いらしいからね。すぐにアリスならやりそうだって納得してたよ。ジゼルはまあ、どっちかって言うとユリウス寄りの感想だったにゃあ。アリスだけずるい。自分も旅にでたいって。」
「それはユリウス王子寄りというのとは少し違うような気がするが・・・。」
「それと、とりあえず変態があの夜の一連の事件に関しては手を打ってくれたから、あたしたちは枕を高くして眠って大丈夫みたい。」
「まあ、あれはああいう形で手打ちというのがベストではないにせよベターだろう。まともに表沙汰にすればグランボルカとしてもリシエールに対して何らかの報復を行う必要がでてきただろうからな。そういう意味ではシエル殿は本当に切れ者だ。」
「そんな褒められるような男じゃないよ。まあ、でもユリウスが使い物にならなくなっちゃったから、変態とジゼルは本当に大変みたいよ。」
「だろうな。お陰で私のところにも仕事が回ってくるくらいだ。」
 アンジェリカはそう言って苦笑しながら机の上に積まれている紙束を見た。
「そういえばメイ。君は非常に優秀なケット・シーだとヘクトール殿から聞いているんだが。」
「うにゃっ!?・・・いやあ、その・・・これからちょっとユリウスの様子を見に行かないと。」
「それはキャシーがやってくれているんだろう?それにオリガから聞いた話だと、リュリュ様もよく顔を出されてるそうじゃないか。」
「そ、そうなのよ。ただでさえユリウスが役に立たないのにリュリュまで働かないからみんなに負担が行っちゃって、本当に大変よね。」
「君が働けばいいんだぞ。」
 そう言ってにっこりと笑うアンジェリカの目の下にはうっすらと隈ができていた。
「なに、君ができそうな仕事もここに来ているんだ。遠慮するな。」
「あ・・・あたしにできる仕事なんてあるのかにゃあ。ほら、あたしってばグランボルカ人でもリシエール人でもないじゃない?」
「・・・聞いたところでは、どうやら君はヘクトール殿が不在の時は傭兵隊のあれこれを執り行う立場にあるそうじゃないか。どうせ君はうちの屋敷に入り浸るだろうからと、手紙付きでアンドラーシュ殿が仕事を送ってよこしたぞ。」
「あの変態・・・。」
「さあ。仕事はこのソファーデスクでもできる。なんだったら君専用の執務室も用意するぞ。」
「ここで・・・いいです。」
 メイはそう言って観念したようにため息を付いて書類の山を見上げた。

 
 続く