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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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「なんだ、不満そうだな。じっくりと説明しようか?」
「結構です。重々承知してますから。」
 アリスはそう言ってふて腐れた表情で顔をそむけた。
 
 広い墓地の中に建てられた真新しい墓標の前で、喪服を着込んだアンジェリカとメイは言葉を交わすでもなく立っていた。
 もう一人だけいた参列者は、埋葬が終わると二人と2、3言葉を交わしたあとで帰っていった。
「・・・これで、よかったのだろうか。」
 つぶやくように、絞りだすようにしてかろうじて吐き出したアンジェリカの言葉をメイが受け取る。
「まあ、ケット・シーなんて、葬式も墓もないのが当たり前だから。十分喜んでいると思うけどにゃ。しかしまあ、世間知らずな子かと思ってたら、最後の力を振り絞ってアンジェに妹の事を頼みにくるとはね。いやいや、強かだよ。」
 瀕死の重傷を負ったフェイオがフィオリッロ家の門の前に倒れていたのは、アンジェリカがフェイオに会いに行った翌々日の事だった。もはや、人間に変身する力も残っていなかった彼女はケット・シーであることを隠すこともできず、追手の追跡を逃れてやっとのことで辿り着いたらしい。
 そして報せを聞いて飛んできたアンジェリカの顔を見ると、安心したように笑い、何枚かの金貨を差し出すと「妹の事をお願いします。」と言って気を失った。そしてそれがそのまま彼女の最後の言葉になった。
「妹ちゃんの事は、あたしの姉さんのところで見てもらってもいいし、年が近いみたいだから妹たちに見させたっていい。フェイオが最後にあんたに渡したお金は、治療費には十分だしね。」
 すでに、フェイオの妹は市中の病院から、軍関係の病院に移っている。差別意識のあまりない若い医師や看護師たちにとって、彼女の愛らしさは一種の凶器であり、すでに病棟のアイドルのようになっている。
「いや。彼女は、私の養女にしようと思う。もちろん彼女がうんと言えばだが。」
「おいおいおい、そりゃあ無茶でしょ。大体あんたの養女にするってことは、許嫁のデールの許しだって必要なんだし。」
「デールはそんな小さなことにこだわるような器の小さな男ではない。」
「いやいや・・・貴族様の養女にケット・シーって・・・聞いたことないよ。」
「前例は作るものだ。大体これからの時代、人間だケット・シーだエルフだと異種族同志で諍いを起こしている場合じゃないからな。わたしはその架け橋になりたいと思っている。」
「まあ、そりゃあそうだ。あたしは別にあの子がいいって言って、二人がいいって言うなら止めないけど。大変だよ?」
「古い慣習など、私がどうとでもしてみせる。」
「ま、せいぜい頑張りな。じゃあ、あたしは用事があるからもう帰るね。」
「ちょっと待て、メイ。」
 立ち去ろうとしたメイの襟首を掴んで、アンジェリカがメイを呼び止めた。
「ウニャ!?」
「仕事もろくにしない君が、ヘクトール殿のいないこの街でいったいどんな用事があるというのだ?」
「えー・・・あたしってそんなにヘクトールのイメージしかない?」
「ないな。」
「はっきり言うにゃ!」
「・・・大方、フェイオの件を調べるのだろう。」
「まあ、ね。カテーナ婆さんの言ってた、フェイオに入れ込んでいたリシエールの下級騎士の事を調べようかと思ってさ。」
「私も行こう。」
「いや・・・でもさ。リシエール陣営のど真ん中に行くわけよ?中にはグランボルカ人を嫌悪してる奴だっているしさ。」
「そういう輩にとってはグランボルカ人もケット・シーも同じだろう。そして、君はそんな中に入って嫌な思いをするほど馬鹿じゃない。・・・だろ?」
 そう言ってアンジェリカがニヤッと笑った。
「・・・アンジェさ、なんかこう。ドンドン悪者っぽくなっていくよね。出会った頃デールの事で赤面してた人と同一人物とは思えないよ。」
「そうか?もしそうならば付き合っている友人のせいかもしれないな。」
 アンジェリカはそう言って悪びれる様子もなく笑った。
 
 
 その日一日足を棒にして情報を集めて自分の部屋へと帰ってきたシエルは、予想していなかった来訪者に驚いた。いや、来訪者のうち一人は勝手に部屋に侵入しているのはいつものことだし、別段驚きもしなかったが、もう一人の人間が家主の留守中に勝手に部屋に忍び込むような人間だとは思ってもいなかった。
「邪魔してるよ、シエル。」
「留守中に勝手に入ってすまない。」
「いやあ、メイ姐さんはいつものことですけど、フィオリッロ様までご一緒とは驚きです。こんな他国の騎士の部屋に来ることをフィアンセ殿はご存知なのですか?まずいんじゃないですかね、仮にも男性の部屋に勝手に入っているなんていうのは。」
「シエル。あんたいつからそんな嫌味をいう子になったの?ヘクトールに叱ってもらう?」
「うへぇ、勘弁して下さいよ、姐さん。」
「だったら、そういう嫌味を言わないの。」
「はいはい・・・で、何の用です?酒なら先週姐さんがあらかた飲んじゃったからありませんよ。」
「嘘いうにゃ。あたしの鼻から隠せると思ってるわけ?ベッドの下に酒瓶隠してるでしょ。」
「・・・・・・で、何の御用でしょう。」
 酒瓶のことは否定も肯定もしないまま、シエルが改めて尋ねた。
「あんたの嗅ぎまわってる件の情報、全部出しなさい。」
「え・・・」
「出しなさい。」
「いやいやいや。ちょっと待って下さいよ姐さん。」
「だすにゃー。」
「可愛く言ってもだめですって。俺が今調べてるのはリシエールの機密に関わる部分の話なんですから。姐さんだけならともかく・・・。」
 口には出さないが、シエルはちらりとアンジェリカを見た。
「ふむ・・・まあ、そうだろうな。」
「わかってもらえて何よりです。」
「君の持っているその封筒が調査資料か。」
「ええ。」
「あまりこういうのは好きではないんだが、仕方ないな。私にも都合があるのだ、許せ。」
 そう言ってアンジェリカが抜刀する。
「ちょ・・・ちょっと!姐さん!剣!真剣!」
「まあ、騎士同士だし、決闘で決めるってことでいいんじゃにゃいの?」
「よくないし!俺めちゃくちゃ弱いの知ってるじゃないですか!止めてくださいよ!」
「・・・あたしのサボりぐせもひどいけど、あんたも大概だと思うにゃあ。たまには思いっきり暴れてみるのもいいかも知れにゃいよ。」
 慌てて仲裁を願い出るシエルに対して、メイはひどくのんびりした口調で、あくび混じりにそう言った。
「う・・・。」
「まあ、アンジェにもその資料の件で真剣になる理由があるってことよ。あんたにとって、真剣で応じるだけの価値がないなら資料を開示しなさいな。機密の保全については、あたしが保証するから。」
「はあ・・・わかりましたよ。・・・まったく、なんでグランボルカ人の女はこう凶暴なんだ・・・。」
 ブツブツと呟きながらシエルは持っていた封筒を机の上に放り投げた。
「にゃ?言ったとおりだっだでしょ。シエルはヘタレだから真剣チラつかせれば言うことを聞くって。」
「うむ。勉強になった。」
「ヘタレだからって言わないでくださいよ!もっと言い方あるでしょう、真剣なフィオリッロ殿の気持ちに打たれたとか。」