愛道局
山本は病院から自分の部屋に戻ってからまた、ふうっとため息をついた。頭の中に病院でちらっと見た患者達の姿が消えない。ただ死を待つだけの存在ではないか。それに比べれば見舞に行った老婆は幸せとも思えた。痴呆になれないのも辛いものだ。思い気持ちを和らげようと、愛気機のスイッチを入れた。少しずつ体の中の何かが溶けて行く気がした。
(今日のボランティアで稼いだ分が、これで無くなってしまうのでないか)
山本は、最近言われている格差に考えが及ぶ。持てるものは愛気が少なくて済み富裕に、貧乏人は愛気を多く使いさらに貧乏になって行くのではないか。「バカどもめ」と山本は誰へともなく呟き、愛気機を止めた。視線を感じて妻の方を見た。優しく微笑んでいる。山本は(ただいま)と心で言う。妻の微笑みを真似て自分も微笑む。うまく微笑みを浮かべられたかどうか怪しいが、少しずつ気分が落ち着いてくるのを感じる。「ありがとう」と呟くと涙が出そうになった。愛気機よりも温かい気が身体に入ってきたようだ。