エイユウの話~終章~
3 そして私は一人になった・1
真っ白な廊下が、ただただ続いている。少年は慣れた足取りで。テンポよくそこを歩いていった。窓の外には鮮やかな緑色が広がり、鳥たちが自慢げに披露している歌が聞こえてくる。穏やかな昼下がりに相応しい陽光が、きらきらと窓から差し込み、室内を歩いていても気持ちが良かった。
突きあたりを曲がると、まだ廊下が続いているものの、もう廊下と言うより縁側と言った方が近いデザインになっていた。まだ新しい彼の白衣の裾が、風でそよそよとはためく。
すたすたと同じテンポで歩いていた彼が、不意に足を止めた。一人の老人が、縁側に腰を掛けて座っている。彼はその老人のほうを向いて、少し大きめの声で話しかけた。
「やあ、日向ぼっこかい?」
老人はうっすらと目を開けて、少年を見た。隙間から見える瞳は鮮やかな赤色で、老人の白髪とよく似合う。顔をくしゃりとして笑うと、老人は彼に応えた。
「ああ、キースさん、こんにちは」
少年、キートワース・ケルティアは老人の横に腰を掛けた。それから、彼が見ていた方に目を向ける。
「もう、『さん』なんて付けないでくれ。君の方が年上だし、偉いんだ」
「ふふふ・・・慣れないものでしてねぇ」
笑いながら、老人も彼と同じ方を見た。二人の視線の先には、一本の若い広葉樹が植えられている。一応背丈はあるものの、がっしりとした風格は無い。
老人は、皺くちゃの手を組んで、脚の上に載せた。
「あれから、どれだけ経ったのでしょう・・・?」
尋ねられて、キースは老人の方を見た。老人は気を見たままで、朗らかな表情を浮かべている。
「さあ?君の年齢から計算する方が早いんじゃない?」
そう言われて、老人、ジャッカル・K・アイランティルスは少し困ったように笑って見せた。
「すこし、昔話に付き合っていただけますか?」
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷