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エイユウの話~終章~

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「こ・・・れは・・・凍氷(とうひ)・・・?」
 凍氷とは、名前のごとく氷の塊のように滑らかで透き通った、水晶の一種だ。結晶自体が磨かずともそのような形状なので、そのような名前がついた鉱石である。が、そんなことは問題ではなかった。イクサゼルが恐れたのは、その水晶に秘められた力である。
 キースは自分の木鏡を、彼に向ける。
「キサカ、僕は君を助けるよ、何年経ってでも」
 そういうと、彼は跨る姿勢になり、空いている方の手でキサカの左腕を押さえつけた。そして、木鏡をもう一つの右手に押さえつけた。すると、姿見と同調して光り出す。
 そう、姿見は木鏡と同じ成分なのだ。そしてそれはつまり・・・
 ズブ・・・と、姿見の中に右手が沈み始めた。凍氷の能力とはすなわち、魔物を閉じ込める能力である。イクサゼルの魔力を、今のキースは充分超えている。そしてさらに、彼が今用いている逃避同士を向い合せにする手法は「合わせ鏡」と言われるもので、強力な魔物を封じ込める際に用いられるものだ。
「待て!お前、こいつを封印する気なのか?」
 慌てた調子のイクサゼルを、キースは無視した。が、イクサゼルは辛うじて動く左手でキースの腕をつかみ返す。
「こいつを・・・友を裏切るのか!」
「裏切ってない」
 そういって力を込めると、キースの腕まで、木鏡に浸かりだす。
「まさか・・・!」
 目を丸くするイクサゼルに、キースは初めてキサカのような、不敵な笑顔を見せた。
「魔物同士の争いに、人を巻き込んじゃいけないよ」
 姿見に、二人の体が見る見るうちに呑みこまれていく。最後の最後にキースは、
「キース君!」というアウリーの声を聞いた気がした。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷