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初めてのお見合い

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 顔と顔が触れ合いそうな至近距離に美少女が迫り、そのときに裕子のやわらかい手が下山の腕や手や胸に触れた。下山は明るい茶色の子猫を裕子に手渡しただけなのに、抱かれたのが子猫ではなく、自分であるかのような錯覚を覚えた。
 記憶はそこで不意に停止し、二十九歳の下山は今、自室で読書をしている。
「登喜夫。今度の土曜日に会わせたいひとがいるんだ。お昼でどうかってね、そんな話になってるんだけど……」
下山の母はそう云いながらゆっくりと階段を登って来た。夕食が済んでまもなくのことだった。
「会わせたいって、何の話だよ」
 本を閉じた下山は驚いた顔で机を背に立ち上がり、母を見降ろす。
「お見合いの話だけどね、お前ももうすぐ三十なんだし、相手はいないんだろ?」
「俺に彼女がいるわけないだろう」
「怒ることないだろう。せっかくいい話を持って来たのに」
 母は怯えた様子で眼を伏せた。
「ちょっと驚いただけだよ……それで、そのひとは……」
 小柄な老女は急に元気を取り戻して云った。
「二十八歳だけど、バツイチじゃないよ。結構美人だし、気立てのいいひとよ」
 元女優でラジオのパーソナリティもしていたと、母は笑顔になって云う。下山もつられ、笑顔になって応えた。
「そういう話なら断りようがないよ。今すぐにでも突撃したいくらいだ」
 このところ何も良いことがなかったので、彼は急に明るい陽射しの中に飛び込んだような気持ちになった。
作品名:初めてのお見合い 作家名:マナーモード