初めてのお見合い
初めてのお見合い
あと半年で下山登喜夫は恋愛経験ゼロのまま三十歳を迎えようとしている。焦っているつもりはないのだが、できればすぐにでも最初の恋愛をしたいと思っていることは事実だ。友人の何人かは十代のうちに最初の恋愛をし、二十代になるとたいていは別の相手と結婚していた。数回の恋愛のあと、子供ができて結婚した友人もいる。
下山が初めて異性に恋心を感じたのは小学生だった頃で、それは二十年近くも前のことだった。同級生の二宮裕子は優等生で、クラス委員をしていた。下山は彼女とはほとんど話をしたこともなかった。
下山は或るとき子猫を抱いて歩いていた。裕子が子猫を見たいと云ったのは、その日の午前中の休み時間だった。裕子は子猫が大好きなのだと、同級生に云っていた。そう云っているのが聞こえたとき、数か月前から裕子に惹かれていた下山は、家で生まれて間もない子猫を、その日の放課後に彼女に見せたいものだと思った。それで、子猫を抱いて出かけたのだった。
裕子の家は裕福で、三階建ての頑丈そうな高級住宅に住んでいた。その家の周りを、下山は子猫と共に何度か回った。
「下山君!可愛い子猫ねぇ!」
裕子の実に優しそうな美しい声が、背後から聞こえた。彼女が家から出て来たところだとすぐにわかって下山は立ち止り、振り返った。彼はすぐ傍に立って微笑んでいる美少女の姿が余りにも華やかなので、呆気にとられた状態だった。少女は更に眼を輝かせて接近し、両手を差し出した。
「わたしに抱かせて!いいでしょ?」