小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

At the time

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

血の気の引いた顔色のコルトが、リュートの弦で傷つき続けた手を、ルガーの鱗に覆われた頬に滑らせた。
「ルガーはこんなに優しいのに、どうして解らないんだろうね……」
何も写さぬ瞳に何もかもを見てきた少女は頬に一筋の煌めくものを滑らせた。震える睫から幾筋も滴り石畳に落ちては消えて行く。ゆっくりと瞼を下ろした少女は力なくルガーの胸に頭を預けた。
「コルトォッ!!」
ルガーの引き攣れた絶叫が広場に轟く。静まり返った観衆は、狼狽して顔を見合わせた。
ルガーはコルトを抱き締めて肩を震わせる。牙がかちかちと音を鳴らし、金色の瞳から絶え間無く涙が滴る。
重苦しい沈黙を破ったのは軽い金属音だった。コルトを狙撃した憲兵が撃鉄を引き下げ、銃口をルガーに向ける。民衆のざわめきも耳に入らず、ルガーは顔を上げない。
「化け物は殺さねばならない。此れは国の為の大義である」
「止せ!見えねえのか!?コイツは女の子を悼んで泣いてンだぞ!?」
「なんて事!女の子を間違えて撃っておいて何を言うの!?」
赤ら顔の男が食って掛かり、赤子を抱いた母が悲鳴をあげたが、憲兵は鼻で嗤い飛ばす。非難の目など意にも介さず、憲兵は引き金に手をかけた。
赤ら顔の男が食って掛かったが、憲兵は鼻で嗤う。非難の目など意にも介さず引き金に手をかけた。
「化け物にそんな感情等あると思うのか?見れば盲の旅芸人ではないか。人の道を外れた人間の考えることなど解らんものだ。そいつも化け物と同じだっ」
「そうだッ!こんな気持ちわるいもの、早く殺してしまっておくれ」
憲兵の嘲笑に反応し、幾人かが同調する。
ルガーが顔を上げた。彼らから向けられる視線は、地面を這い回る蟻を踏み潰す子供のそれと何も変わらない。虫を潰して罪悪感を得る子供などいるだろうか。
ふつふつと湧き上がる怒りが懐き、憲兵を炎の灯ったぎらつく瞳で睨み付ける。片腕にはぐったりとしたコルトを抱いて立ち上がる。人の中にあってルガーは頭二つはぬきんでていた。
「化け物だと」
触れれば焼ききれる灼熱の怒りを纏う化け物に民衆は後ずさった。低く唸る声を上げる。歯をむき出し、雄叫びを上げた。
「貴様らの方が余程バケモノだ!!」
魂の咆哮は質量を伴って紅く空気を震わせ、近場の窓は罅割れる。恐れをなした憲兵の引いた銃弾はルガーの肩を掠め、硬い鱗を一枚剥ぎ取った。
悲哀と怒号の混じる言葉にならぬ獣の咆哮とともにルガーはコルトを抱きかかえて跳躍した。屋根を駆け抜け、風のように城壁を登る。銃弾など届かぬ高みで、ルガーは街に轟く声を上げた。


そして、バケモノは、史上最悪の悪魔となる。
作品名:At the time 作家名:万丈壌