西洋風物語。(仮題)
そんなことを話していると、遠くから葉を踏みしめて走ってくる音が近づいてきた。
上級兵からの連絡だろうか?
そう考えて周囲を見渡すと、見覚えのある民族衣装が目に入った。
女神だった。
「あれ、女神様!?どうしましたか!?」
「どうしたんだ?女神様がこんなとこにいるなんて。」
確か、女神は上級兵達といたはず。
何故、こんなところに、と二人が疑問を呈すると、女神は息を切らしながら応えた。
「すみません、わたしの願いを聞いてはくださいませんか?」
突然そう言われ、目を丸くしてカイルは言葉を返した。
「願い?」
「わたしは今から、王国に引き渡され、人柱とされます。魔女の力を封じるために・・・!」
人柱。
それは、人を一人犠牲にし、封じるための存在。
彼女は今から、王国へ行き、そのまま命を落とすことになるのだ。
ただひとつ、魔女を封じるという目的のために。
「え、人柱って・・・!?そんな、酷い・・・!」
突然の告白に、驚きを隠せないエルムに、女神は続きを語る。
「その前にわたしはカラカラの砂漠へ行き、わたしを育ててくれた人たちへ一言お礼が言いたいのです。」
状況を飲み込めていないカイルは、ぼんやりと呟く。
「それくらい、騎士団に頼めばいいんじゃないの?」
「なりませんでした・・・。
どうやら事態は一刻を争っているようです。
わたしは、ただ力を解放するための鍵として生きるさだめ。」
エルムは、自分達のしていたことに後悔を覚える。
「お礼どころじゃない、私達、人を王国に引き渡すために動いていたなんて・・・!」
そして、状況を飲み込んだカイルは、怒りを顕にした。
「・・・許せねぇ・・・」
「え・・・?」
ぽつりと呟くように言ったカイルの言葉に、エルムは思わず言葉を漏らした。
そして、カイルは言葉を続ける。
「許せねぇ、って言ったんだ!
人柱ってことは、お前、殺されるんだぞ!?なんで黙ってるんだよ!?」
カイルの怒声に、女神はおずおずと言葉を返す。
「それは・・・この王国のために必要だと思って・・・」
「必要ならお前は国の意思で死ぬのか!?そんなの俺が許さねぇ・・・!」
この言葉を聴いた瞬間、エルムは嫌な予感がしたのか、言葉を返した。
「まって、何考えてるの!?」
しかし、もうカイルの中で答えは決まっていたようだ。
しっかりした口調で、カイルは言葉を紡ぐ。
「俺がお前を助ける!」
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「点呼を取るぞ!」
隊長が言うと、兵達が集まってきて、列をなした。
しかし、そこにいるはずの二人の姿が見当たらない。
「・・・ん?新人はどうした!!」
その言葉に、一人の兵士が走ってきて言った。
「新人二人、見当たりません!」
「何!?」
驚く隊長に、兵士は言葉を続ける。
「そして、女神様も行方が解りません・・・!」
兵士のその言葉に、隊長は確信を持ったように呟いた。
「もしやあいつら・・・本当の目的に気づいたな・・・!」
そして、兵全体に聴こえるよう叫んだ。
「なんとしてでも探しだせ!新人兵は殺しても構わん、女神だけは無事取り返せ!」
作品名:西洋風物語。(仮題) 作家名:うたた寝ぽち。