西洋風物語。(仮題)
「ここから、あの街まで護衛するのか・・・。」
少年は、ふと呟いて空を見上げる。
青く輝く空には、戦の風など吹いてはいないように感じる。
しかし、彼は騎兵隊に所属している。
「カイル、どこ行ってたの!班長がお怒りよ!」
少年に、少女が声をかける。
カイルと呼ばれた少年は、ふと地図から目をあげて、少女に言った。
「ん、エルム、お前か・・・すまん、ちょっと今日の経路の確認を、」
エルムと呼ばれた少女は、目の淵を釣り上がらせながらカイルに言う。
「いい加減にしなさいよね、経路の確認は昨日までに各自って言ってたでしょ?」
あからさまに起こっている雰囲気のエルムに、カイルは思わず頭を垂れた。
「う・・・すまん・・・。」
「早く、集合場所にいかないと!なんせ私達、女神の側近役に選ばれたんだから!
新人には滅多にないことよ!」
エルムは意気揚々と言うと、足取り軽やかに先に進む。
カイルは、未だ見たことのない”女神”とやらに首を傾げた。
「そうだな・・・しっかし、女神様ってのはどんな奴なんだ?俺、今日初めて見るぞ?」
身も蓋もないいい方に、エルムは再び目の淵を釣り上がらせた。
「もう、女神様に「奴」って何様よ!?とにかくもう会えるんだから、行くわよ!」
まだ、彼らはことの真実を知らないままだった。
いや、この後、全てを知ることで、彼らの運命は変わっていく。
この護衛が、彼らの中の運命の歯車を一つ一つ、噛みあわせていくのだ。
一方、集合場所では、もう隊長が点呼をとっている最中だった。
「すみません、遅れました!」
エルムが謝ると、中心にいたいかにも偉そうな男が輪の外へ出てきた。
そして、遅れてきたカイルとエルムに激を飛ばす。
「遅い!まったく、これだから新人は・・・!お前ら、兵の1員としての自覚を持て!」
「申し訳ありません!」
間髪入れずに謝るエルムであったが、カイルはそうではなかった。
ばつが悪そうな顔つきで、不貞腐れたように呟いた。
「・・・すみません」
「なんだ・・・?その態度、俺に喧嘩売ってるのか・・・?」
その言い方が癪に障ったのか、隊長の機嫌が悪くなる。
そして、より喝を入れられないよう、エルムがフォローを入れる。
「そんなんじゃないですよ、ね、そうでしょ?」
しかし、そのエルムの目が笑っていないことにカイルは気づいた。
恐る恐る、隊長に謝る。
本当は、隊長よりもエルムの方が怖いのではないか、なんて思っていた。
「はい、すみません!」
「そうか、それならいいんだ。今回の護衛対象だ、しっかり挨拶しておけ!」
その一言にすっかり機嫌を直した隊長は、護衛対象である女神の方へ二人を通す。
女神は、気まずそうに佇んでいた。
そんな彼女に、エルムは明るく声をかける。
「カラカラの砂漠の女神様ですね!我々が護衛しますので、どうかご安心を!」
それでも、あまり環境に馴染めないのか、
「・・・ありがとうございます・・・。」
と困ったように返すだけであった。
「・・・どうも。」
カイルは素っ気ない様子で、女神に対しても接していた。
それをエルムが窘める。
「どうも、じゃないでしょ!もう、あんたってやつは・・・!!」
「ふふっ・・・面白い人ですね。」
女神は少し笑った。
その笑顔は、太陽を讃えたかのように暖かいものだった。
カイルは思わず、
「え?」
と声を漏らしたが、女神は含み笑いをしながら、
「いえ、なんでも。よろしくお願いしますね。」
と一礼した。
「よろしくお願いします!」
エルムも一礼し、その時に隊長の激が飛んだ。
「挨拶が終わったら作戦確認だ!戻れ、新人!」
「はい!」
隊長の一言に二人は返事をし、女神の元を後にする。
「またね、新人さん。」
女神は、二人を見送りながら呟いた。
一方、隊長の元では、作戦確認の会議が始まっていた。
「今回はこのウズラガズルの森を通る。
迂回ルートは、2班、3班、援助班は4班、5班、救護班は7班だ!
ルートをよく把握しておけ、迷子になったら置いていくぞ、新人!」
隊長の簡潔な説明に、二人も応える。
「はい、了解です!」
ウズラガズルの森は、古く昔から魔女が巣食うという噂のある森であった。
遠征に出る際も、滅多に立ち寄らない場所である。
しかし、市街からの王都への一番の近道はこの森であった。
そのため、魔女に出くわすリスクと引き換えに、女神護衛として強靭な兵力を費やすことで女神を守り、かつ迅速な移動を試みているのである。
「この森は魔女が出るという噂だ。魔女は闇とともに魂を喰らうという!
お前たち、魂はどこに捧げた!!」
隊長のこの言葉は、この騎兵隊に代々伝わる文句である。
騎兵隊、そして王に対する忠誠を確認する際に使われる言葉だ。
「女神に、この騎士団に捧げます!」
二人がそう応えると、隊長は即座に言葉を返した。
「よろしい!では、遠征を始める!出遅れるなよ、新人!」
「はい!」
******
ウズラガズルの森は、鬱蒼と木々が覆い茂っていた。
いかにも不気味な雰囲気の森であったが、そこを騎兵隊第一班が歩み進めていった。
カイルとエルムは横に並ぶように歩いており、その少し後ろには女神がいた。
「側近役とは聴いていたが、まさかこんなに近いとはなぁ・・・。」
カイルがぼやくと、女神は楽しそうに言った。
「ふふ、いいじゃないですか、わたしは嬉しいですよ?」
そして、女神と会話を進めるカイルに、エルムが突っ込みを入れる。
「気軽に女神様と私語を楽しんでるんじゃない!
全くもう・・・わたしがいなかったらどうなってることか・・・」
すると、その様子を見ていた女神が不思議そうにたずねてきた。
「二人は仲がいいの?出会ってどれくらい?」
「俺たちですか?出会ったのはガキの頃でしたから、もう随分・・・
どうしてそんなことを?」
カイルが驚いたように返答すると、女神は寂しそうに言った。
「羨ましいのよ、こんな風に楽しく話せる相手がいて。
わたしはずっと祀られてきた存在。だから、親しい友人もいない、ずっと一人だった。」
遠い目をしながら語る女神の背中に寂しさを感じたカイルは、明るく声をかけた。
「なら、俺が友達になりましょうか?」
「ちょっと!?突拍子もなく何言ってるの!?」
カイルの突然の宣言に、エルムが驚いたように返す。
すると、女神はまたおかしそうに笑い、言葉を返した。
「ふふ・・・冗談だとしても嬉しいわ、ありがとう。」
そう言った女神の顔は、どこか寂しさを讃えていた。
その瞬間、業を煮やした隊長の激が飛ぶ。
「私語を慎め、新人!それとも森に放置されて魔女に喰われたいか!?」
「すみません!」
******
「ふー、にしても結構距離があるもんだなぁ・・・。」
休憩地点で、息をついたカイルがそう呟いた。
隣で水筒から水を飲んでいたエルムが、落ちついて応える。
「そんなの遠征なんだから、距離はあって当たり前よ?」
少年は、ふと呟いて空を見上げる。
青く輝く空には、戦の風など吹いてはいないように感じる。
しかし、彼は騎兵隊に所属している。
「カイル、どこ行ってたの!班長がお怒りよ!」
少年に、少女が声をかける。
カイルと呼ばれた少年は、ふと地図から目をあげて、少女に言った。
「ん、エルム、お前か・・・すまん、ちょっと今日の経路の確認を、」
エルムと呼ばれた少女は、目の淵を釣り上がらせながらカイルに言う。
「いい加減にしなさいよね、経路の確認は昨日までに各自って言ってたでしょ?」
あからさまに起こっている雰囲気のエルムに、カイルは思わず頭を垂れた。
「う・・・すまん・・・。」
「早く、集合場所にいかないと!なんせ私達、女神の側近役に選ばれたんだから!
新人には滅多にないことよ!」
エルムは意気揚々と言うと、足取り軽やかに先に進む。
カイルは、未だ見たことのない”女神”とやらに首を傾げた。
「そうだな・・・しっかし、女神様ってのはどんな奴なんだ?俺、今日初めて見るぞ?」
身も蓋もないいい方に、エルムは再び目の淵を釣り上がらせた。
「もう、女神様に「奴」って何様よ!?とにかくもう会えるんだから、行くわよ!」
まだ、彼らはことの真実を知らないままだった。
いや、この後、全てを知ることで、彼らの運命は変わっていく。
この護衛が、彼らの中の運命の歯車を一つ一つ、噛みあわせていくのだ。
一方、集合場所では、もう隊長が点呼をとっている最中だった。
「すみません、遅れました!」
エルムが謝ると、中心にいたいかにも偉そうな男が輪の外へ出てきた。
そして、遅れてきたカイルとエルムに激を飛ばす。
「遅い!まったく、これだから新人は・・・!お前ら、兵の1員としての自覚を持て!」
「申し訳ありません!」
間髪入れずに謝るエルムであったが、カイルはそうではなかった。
ばつが悪そうな顔つきで、不貞腐れたように呟いた。
「・・・すみません」
「なんだ・・・?その態度、俺に喧嘩売ってるのか・・・?」
その言い方が癪に障ったのか、隊長の機嫌が悪くなる。
そして、より喝を入れられないよう、エルムがフォローを入れる。
「そんなんじゃないですよ、ね、そうでしょ?」
しかし、そのエルムの目が笑っていないことにカイルは気づいた。
恐る恐る、隊長に謝る。
本当は、隊長よりもエルムの方が怖いのではないか、なんて思っていた。
「はい、すみません!」
「そうか、それならいいんだ。今回の護衛対象だ、しっかり挨拶しておけ!」
その一言にすっかり機嫌を直した隊長は、護衛対象である女神の方へ二人を通す。
女神は、気まずそうに佇んでいた。
そんな彼女に、エルムは明るく声をかける。
「カラカラの砂漠の女神様ですね!我々が護衛しますので、どうかご安心を!」
それでも、あまり環境に馴染めないのか、
「・・・ありがとうございます・・・。」
と困ったように返すだけであった。
「・・・どうも。」
カイルは素っ気ない様子で、女神に対しても接していた。
それをエルムが窘める。
「どうも、じゃないでしょ!もう、あんたってやつは・・・!!」
「ふふっ・・・面白い人ですね。」
女神は少し笑った。
その笑顔は、太陽を讃えたかのように暖かいものだった。
カイルは思わず、
「え?」
と声を漏らしたが、女神は含み笑いをしながら、
「いえ、なんでも。よろしくお願いしますね。」
と一礼した。
「よろしくお願いします!」
エルムも一礼し、その時に隊長の激が飛んだ。
「挨拶が終わったら作戦確認だ!戻れ、新人!」
「はい!」
隊長の一言に二人は返事をし、女神の元を後にする。
「またね、新人さん。」
女神は、二人を見送りながら呟いた。
一方、隊長の元では、作戦確認の会議が始まっていた。
「今回はこのウズラガズルの森を通る。
迂回ルートは、2班、3班、援助班は4班、5班、救護班は7班だ!
ルートをよく把握しておけ、迷子になったら置いていくぞ、新人!」
隊長の簡潔な説明に、二人も応える。
「はい、了解です!」
ウズラガズルの森は、古く昔から魔女が巣食うという噂のある森であった。
遠征に出る際も、滅多に立ち寄らない場所である。
しかし、市街からの王都への一番の近道はこの森であった。
そのため、魔女に出くわすリスクと引き換えに、女神護衛として強靭な兵力を費やすことで女神を守り、かつ迅速な移動を試みているのである。
「この森は魔女が出るという噂だ。魔女は闇とともに魂を喰らうという!
お前たち、魂はどこに捧げた!!」
隊長のこの言葉は、この騎兵隊に代々伝わる文句である。
騎兵隊、そして王に対する忠誠を確認する際に使われる言葉だ。
「女神に、この騎士団に捧げます!」
二人がそう応えると、隊長は即座に言葉を返した。
「よろしい!では、遠征を始める!出遅れるなよ、新人!」
「はい!」
******
ウズラガズルの森は、鬱蒼と木々が覆い茂っていた。
いかにも不気味な雰囲気の森であったが、そこを騎兵隊第一班が歩み進めていった。
カイルとエルムは横に並ぶように歩いており、その少し後ろには女神がいた。
「側近役とは聴いていたが、まさかこんなに近いとはなぁ・・・。」
カイルがぼやくと、女神は楽しそうに言った。
「ふふ、いいじゃないですか、わたしは嬉しいですよ?」
そして、女神と会話を進めるカイルに、エルムが突っ込みを入れる。
「気軽に女神様と私語を楽しんでるんじゃない!
全くもう・・・わたしがいなかったらどうなってることか・・・」
すると、その様子を見ていた女神が不思議そうにたずねてきた。
「二人は仲がいいの?出会ってどれくらい?」
「俺たちですか?出会ったのはガキの頃でしたから、もう随分・・・
どうしてそんなことを?」
カイルが驚いたように返答すると、女神は寂しそうに言った。
「羨ましいのよ、こんな風に楽しく話せる相手がいて。
わたしはずっと祀られてきた存在。だから、親しい友人もいない、ずっと一人だった。」
遠い目をしながら語る女神の背中に寂しさを感じたカイルは、明るく声をかけた。
「なら、俺が友達になりましょうか?」
「ちょっと!?突拍子もなく何言ってるの!?」
カイルの突然の宣言に、エルムが驚いたように返す。
すると、女神はまたおかしそうに笑い、言葉を返した。
「ふふ・・・冗談だとしても嬉しいわ、ありがとう。」
そう言った女神の顔は、どこか寂しさを讃えていた。
その瞬間、業を煮やした隊長の激が飛ぶ。
「私語を慎め、新人!それとも森に放置されて魔女に喰われたいか!?」
「すみません!」
******
「ふー、にしても結構距離があるもんだなぁ・・・。」
休憩地点で、息をついたカイルがそう呟いた。
隣で水筒から水を飲んでいたエルムが、落ちついて応える。
「そんなの遠征なんだから、距離はあって当たり前よ?」
作品名:西洋風物語。(仮題) 作家名:うたた寝ぽち。