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きらめき

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『終末戦争』〜改題*きらめき〜


 新名神高速道路は比較的空いていた。
 左手には、四角く区切られた広い敷地に背の高いビル一棟と、それに隣り合って低層の細長い建物がある。それと同じような形式の建物を有した敷地が、どこまでも続いている。ひと昔前には、近江米を産する田園が広がっていたという。それらの奥の方には広々とした琵琶湖が、また進路方向やや左方には、伊吹山の姿が垣間見えている。
 

「ぎょうさんの鳥さんが、飛んでるねぇ」
 女は息子を抱きかかえてシートにもたれ、頭上を横切り、湖の方へ群がり飛んでいく鳥を差し示していた。運転席に座っていた男は、「どれどれ」と顔を寄せ、その様子を眺めるついでに女性の耳たぶに唇を押し当てると、彼女の顎を引き寄せ唇を重ねた。
 3歳になる息子が、「ぼくもチューちて」と言って、唇をとがらせている。
 自動運転のレクサスは、目的地を入力しておけば、レーダーやカメラのセンサー情報をコンピューターが処理する、自走ロボットである。


「おぉー、そうや! なんかおもろい映画、あるっかな?」
 おどけた声を出して映画検索をしてみせると、「ドラえもん!」と息子。
 かなり昔の番組だが依然として子供には人気があり、静かにさせておくにはもってこいである。いくつも表示されているドラえもん一連の番組欄からひとつを選ぶと、男は再び女と・・・。


 車に異常が生じたのは、養老サービスエリアを過ぎてすぐのことであった。
 「あれぇえ〜」という息子の素っ頓狂な声に、ドラえもんの映画に目を向けると、それは見慣れない文字列を映していた。次の瞬間、計器類の表示がめまぐるしく動き出したのである。
 車は徐々に、スピードを上げた。
 男はあわてて体勢を戻し手動に切り替えると、ハンドルだけはなんとか制御できたが、ブレーキは全く利かなくなっていた。
 エアコンの効き目が次第に失せ、室温が急上昇してきている。真夏の太陽が、容赦なく照りつけていた。
「どうなっとんのや・・・お前ら、覚悟しとけよ」
 掌をぐっしょりと濡らして必死にハンドルにしがみつき、あっという間に迫り来る車を避け続けた。
 ムッとする息苦しい空気に女は窓を開けようとしたが、びくともしない。
 バッグから取り出した端末で、通話を試みる。警察には繋がらない。手当たりしだいに表示を押していった。ようやく繋がった電話に、「車が暴走して」・・・と。
 その後はなかった。
 叫び声と共に車は中央分離帯に激突し、大破した。


 西日本道路交通管制室の警報ブザーがけたたましく鳴り響き、係官がそれに連動している監視カメラの映像に目をやると、子どもを胸に押し当てて恐ろしい形相で操作盤をいじっている女と、ハンドルにしがみついて目を血走らせている男の様子を、次々と設置されているカメラが捉えていった。
『緊急! 名古屋方面に向かっている車は左車線に寄って停車しなさい!』
 無線情報と、電子標示板によって緊急指令が出された。
 ほとんどの車は緊急指令を受信し、自動停止したのだが、自動運転ではない古い車で情報を聞き逃したドライバーは、後ろから急接近してくる車を捉えるやあわてて左側に寄せ、ゆっくりと停車するなどして、事故に巻き込まれる難をかろうじてまぬがれることが出来た。


 暴走の原因は、電子制御装置の不具合、によるものとして処理された。

作品名:きらめき 作家名:健忘真実