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きらめき

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『中性子線被曝』


【広野雪奈の記録メモより】

2013年8月7日(水) 快晴
5:30 上高地に到着  5:50 出発
7:20 徳沢
   蒸し暑い大阪とは比較できないほどさわやかな朝、幾組ものパーティーを追い越して快調快調

9:00〜10:00 横尾
10:45 屏風岩一ルンゼ取り付き
11:05 登攀開始 橋口、広野、西村のオーダーで開始、以降つるべ(ピッチごとにトップを交代すること)で

           
 横尾にテントを張った後、岳遊会の夏合宿の先陣を切って前穂高岳をアタックするべく、橋口久雄、西村裕二とアタックザックに登攀具と3日分の食料等を詰め直して、10日にやって来る本隊を待ちうけるテントを残し出発したのは、10時過ぎとなった。
 屏風岩一ルンゼ登攀、3人が交替しながらトップに立ち、屏風の頭から前穂高岳北尾根四峰の取り付きに到着した頃には、すっかり暗くなっていた。ヘッドランの明かりで歩くのに、少し時間がかかり過ぎ
7時着


 ゼル(ゼルプスト・安全ベルトのこと)をはずしてザイルを直接腰に巻き付け、岩陰を求めて下っていくと、怪しく光る物体が、かなり離れてはいるがちょうど目の高さの位置から落ちて行くのが見えた。
8時ごろ
 花摘みを終えてから、ふたりにそのことを話しその方角に目をやると、今まさに光る物体が空中から現れて落ちて行った。その場所は奥又白池の辺りと推定し、登攀はあきらめて、明朝明るくなってからそれが何であるかを確認しに降りて行くことを相談して決めた。
      残念だが、ただならぬ気配を感じる
8:30ねる  星がきれい


2013年8月8日(木) はれ時々くもり
3:30起床 岩の上で寝たので、背中が少し痛かった。ザイルで体を固定していたが、寝ている間に滑り落ちないか不安で、何度も目を覚まし体の位置を確認した。


 奥又白池がある台地にお花畑があったかいな、と話しながら下っていたのだが、近付くにつれそれらは花ではなく、衣服であることに気付いた。いたる所に人が倒れている。
 生きてる?
 衣類の乱れは見られないが、露出部は皮膚がなくなるほどの火傷をしている。  
 変わった服
 映画の撮影に使ったのかと思ったが、近くで覗きこむとやはり人間、よく出来た作りものだろうか、ざっと見て20体。
 うめき声がした方に行くと、ノートのようなものを握りしめて、その手が少し動いた、人間だと分かってあわてた。その人はもう動かない
 西村君が携帯を取り出したが、ここからは電波が送れない。急いで徳沢の小屋まで下ることにする。
 ノートは、何か分からない液体で濡れているようなので、ポリ袋で挟んで抜き取り、袋に入れたままザックの上フタに入れた。

 
 石がゴロゴロしているガレ場、急けいしャ面を木につかまりながら下り、一パン登山道に出るとホッとしてペースダウンした。とくさわエン着9時
  けいさつと消ボウにれんらくがとられた 
      くわしくききたいからここでまつ ように
  ふと手をみると、皮がめくれ、まるでヤケドしたみたい 石や木をつかんでいただけ 
     ああ  のどがひりつく   たっぷりのんだノニ
          つかれがキュうに     ねぶそく ?
    キブン ワル っ
   


 広野雪奈のノートには、これ以上書かれることはなかった。
 奥又白周辺の上空を飛んでいた遭難救助ヘリの隊員が、たまたま積んでいた線量計の針が大きく振れているのに気づいた。測定不能なまでに針が振り切れていた。
 本部と交信中、徳澤園に連絡を入れた登山者の状態がおかしいという情報が入り、彼らを病院に搬送する指示が出されたのである。
 おう吐、皮膚の炎症、そして倦怠感等を訴えている状態を観察していた隊員のひとりが、放射線障害かもしれないと判断した。強い放射線を感知した奥又にいたのだからきっとそうだ、ということで、放射線被曝者の治療に当たった経験のある、東大付属病院に搬送された。

作品名:きらめき 作家名:健忘真実