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八峰零時のハジマリ物語 【第二章 012】

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  【012】


――次の日、授業が終わり、高志と遊馬のセキュリティを振り切り、俺は「丘の上公園」に向かった。

 その前に、今日の朝もまた舞園が教室に来ていて、俺と舞園は昨日と同じ屋上入口の踊り場に行き、そこで舞園から「昨日の一連のこと」「マリアのこと」「今日の約束」のことをマリアから聞いたと話をした。
 舞園は最初はマリアの声に怖がっていたようだが、自分の名前が出て少しホッとしたらしく、その後の事情を聞き、こうやって朝の内に報告したかったとのことで来たらしい。

「ありがとう、零時くん」
「いや、俺は何もしてないって。それに別に悪魔だったわけじゃないしな」
《そうだぞ~利恵。わたしは天使なのだぞ~》
「はは……ごめんね」
「あれっ? マリアの声が……聞こえる?」
《ああ、そりゃあ……マリアは天使だからね、舞園ちゃん》
「えっ? 今の声は? 何か……零時くんのほうから聞こえてきたけど」
《人間の中に入っていても、ワタシたち天界の者同士であれば、テレパシーを使ってお互いの会話ができるのさ》
 シッダールタがそう言うと、いきなり、
「どうも、はじめまして。ワタシは『天界の救世主(メシア)シッダールタ』、君の……愛の戦士だ」
「え、え・え・え・え~?!」
 シッダールタは自己紹介の瞬間、俺と身体を入れ替えて舞園に近づいてそう言い放った。
《お、おい! シッダールタ! ふざけんな! まだ、舞園はお前と俺のこと知らないだろうがっ! そんなこと言ったら舞園が勘違いして……》
「れ、零時くんっ! 何を言って……わたし……信じて、いいのかな?」
 若干、手遅れな感じが見えた。
《おいっ! 変われ、シッダールタ!》
 そうしてシッダールタとまた入れ替わった。
「ま、舞園……あのな……」
「れ、零時くん……あ、あんな、かっこいいことも言うんだね。ちょっと意外……」
「い、いや、そうじゃなくてだな……おいっ! マリア! お前も何とか言えよ」
《ふぅーやれやれ……シッダールタ様の『お戯れ』は相変わらずですなのだぞ》
「お、お戯れ……?」
《うむ。過去に一度、顕現したときも、今みたいにいろんな女性に声をかけては『お戯れ』をしていたのだぞ》
「すごく納得」
《まあ、それも長続きはしなかったのだがなのだぞ~》
「?」
《とりあえず利恵に説明するのだぞ……おーい、利恵》
「マ、マリア?」
 そうして舞園利恵は、マリアと零時から『零時の中にいるシッダールタの話』と『零時の今の状況』の話を聞いた。

「ええっ! そうだったの? 零時くん」
「あ、ああ。俺は一度死んで、それから俺の中にはさっきのシッダールタがいるんだ」
《はーい、舞園ちゃん》
「ほ、本当だ。聞こえる。零時くんとは『いろいろと全然違う』人だ~」
《その『強調』はどういうことかな……舞園ちゃん》
《それよりもシッダールタ様……》
《な、何だよ……!》
《いいのですかなのだぞ?》
《な、何が?》
《そんな『お戯れ』をして……この学校には『アマテラス様』もいるのだぞ?》
《!?》
「んっ?」
 何だろう……? 一瞬、シッダールタの背筋がゾクッとしたような感覚を感じた。
《そ、そうだな……気をつけよう。ありがとう、マリア》
《いえ、とんでもないですなのだぞ》
「「……?」」
 俺と舞園は二人の会話についていけずにポカンとしていた。
《とりあえず……》
 とここで、シッダールタ。
《舞園ちゃん、マリア、今日、学校が終わった後、丘の上公園に集合だ。そこで、今後のことについて話をする》
《かりこまりましたなのだぞ》
「わ、わかりました」
「じゃ、じゃあ舞園……後で」
「う、うん」
 こうして朝、舞園と約束を取り付けていた俺は、丘の上公園へ向かっていた。

 丘の上公園に着くと、舞園がすでにベンチに座って待っていた。
「舞園~」
「零時くん」
 俺はベンチに駆け寄り、座りながら話をした。
 ここからは俺とシッダールタは身体を入れ替えて、シッダールタのほうから今後の話をすることになった。
《まず、ここで整理しておきましょう。特に舞園ちゃんはまだ今の状況は充分に把握していないと思いますので……》
「は、はい。お願いします」
《コホン……えーまず、これからやるべきことがいくつかあります。まず優先事項は『ワタシの力の復活』です。そのためには人間の『マナ』を集める必要があります。これは、わかりますか?》
「あ、はい。マリアからもお話を聞きました。人間の『愛情エネルギー』のことですよね?」
《まあ、そのような認識でよろしいです。ただし、舞園ちゃんみたいに『天使が中にいる人間』からは、『マナ』を取り出すことはできません。取り出せるのは『純粋な人間』からだけです》
「えっ……? じゃあ、わたしはもう普通の人間じゃ……」
 すると、ここでマリアがフォローに入る。
《大丈夫です。別に利恵が『人間じゃない』と言っているのではないのだぞ。シッダールタ様の言い方が言葉足らずなだけなのだぞ。今、わたしが利恵の中にいるのは一時的なことで、すぐに離れることは可能なのだぞ》
「ほ、本当に?」
《もちろんなのだぞ。『わたしと利恵』との関係と、『シッダールタ様とあの男』の関係とは全然違うのだぞ。だから心配しなくていいのだぞ》
「う、うん。わかった」
 そう言うと、舞園は少し落ち着きを取り戻した。
「でも、わたしのマナは零時くんには渡せないの?」
《悪いがそれは無理なのだぞ。それはわたしがこのシッダールタ様がいる間は協力するので、その協力にはどうしても利恵の身体が必要なのだからなのだぞ。すまないが、それは諦めてくれ》
「う、うん。わかった」
 舞園はマリアにとても忠実だった。
 確かにマリアを見ていると、意外としっかりしているように見えるからな……どっかの『救世主(メシア)』と違って。
「零時……聞こえてるよ」
《わかってるよ。だから聞こえるように『心の声』で言ったんだよ》
「零時……ワタシは、本当にすごい人なんだぞ~」
《今のところは、まだ信用できん》
「はあ……」
 そんなシッダールタと零時のやりとりを横で聞いていたマリアが、
《おい、八峰零時っ! シッダールタ様は、確かに頼りないところもあるし、女たらしで、誰にでもすぐに声をかけるような軽薄な男のように見えるが実は……イメージ以上にそうとう軽薄な男なのだぞっ!》
《おい、幼女。俺よりひどい事しか言ってないぞ》
《あ、間違えたなのだぞ。わたしが言いたかったのは、シッダールタ様は『天界の中で一番すごい人』だと言うことなのだぞ》
「うむ、マリア。もっと言いなさい」
《全然、そんな風に見えねーし。マリアも何かただの『メイドコス幼女』にしか見えないけどな》
《シッダールタ様、こいつちょっと撲殺してもいいですかなのだぞ?》
「よせ、マリア。気持ちはわかる」
《……おい》
《いいか、八峰零時っ! シッダールタ様は今、力を失っているとは言え、それでも魔界の幹部レベルなんて瞬殺できるほどの力は持っているのだぞ》