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End Of A Century

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そうだ。最初から俺はお前のことが嫌いだった。イジってやったら急に怒り出して、イジられるようなことするのが悪いんだろ。空気読めよ。そういうお前を俺は心底バカにしてる。なんだかわからない小難しい本を読むのも、マイナーなパンクバンドの話をするのも我慢ならない。だけど俺たちは、もしかしたら親友になれたかもしれない。俺が『パークライフ』を、お前が『モーニング・グローリー』を、貸し合いっこする並行宇宙があったのかもしれない。この世界ではそんなことは永遠にありえないけど。



そしていま俺は、カケルさんのことを思い出してる。プログラミングの課題わかんないっすってすりよったらマックでクソ丁寧に教えてくれたこと、しかも奢りだったこと、そのときのビッグマック、今度ラーメン屋一緒に行きましょうよと言ったけど結局その約束は実現することはなかったこと。そしてこれからも実現することはないということ。それがどういうことなのか、俺にはわからなかった。俺がそれを理解できないのは、俺が「最近の若者」だからなのか? 人生経験が少ないから? それとも俺の頭がすでにイカれてるから? わからない。怖い。


いつだって怯えてる俺にアルマは怖くないよって言ってくれた。世紀の終り、でも特別なことなんてない。だから大丈夫。俺たちが同じ服を着てるのは同じ気持ちだから。でも俺は今でもそんなことやらなければいいのに、言わなければいいのにって思いながらやらかして、おまじないがなければ夜も怖くて眠れないんだ。俺に期待してほしい、失望してほしい。俺をほめてほしい。俺をけなしてほしい。お前なんか生きてる価値はないんだって言ってほしい。そうしたらもっと楽になれる気がする。そうしたら。心の中がぐちゃぐちゃになりそうな気がする。普通じゃないって誰かをけなしながら、俺が一番普通に怯えてる。考えたくない、こんなこと。楽しいことだけで十分だ。たとえそれが表面的でも、明日にはなくなってたとしても。


「俺たちが普通じゃなきゃって思うのは、普通じゃない人にはなれないから……特別な持ち物を持ってないから……」
俺がうまくできたとき、みんなすごいねってほめてくれた。みんないつでも俺をほめてくれる。すごいね。かっこいい。なんでもできるんだね。俺にはいったい何が足りないんだろう。どうしたらミオみたいになれるんだろう。どうしたらおまじないがなくても夜眠れるようになるんだろう。いったいいつになったら、バスの中で騒ぎを起こさずにいられるんだろう?
それでも俺はひとりになりたくなかった。同じ服を着てるのは本当に俺たちが同じ気持ちだからだって言ってほしい。だから大丈夫だって。みんな同じ気持ちなんだって。同じ服を着ていれば、同じ気持ちでいればひとりになることはないから。


急に背中を触られてビクッとした。エイミだった。心配そうに俺を見上げている。大丈夫だよ、と言って俺の背中をポンポンと叩いた。何も訊かれないのが逆にいたたまれなかった。エイミのでっかい黒目が俺の心の中まで全部見透かしそうで俺は目をそらした。
「……お前が俺のどこを好きなのか俺にはわかんないよ」
俺は地面を見つめながらそういった。
「わかんないの? リヒトは馬鹿だね」
ふふっ、とエイミはちょっと困った五歳児を前にしたように笑った。俺はなんだかそれがうれしかった。
「俺って馬鹿?」
「馬鹿だよ」
そっか、よかった。俺は下を向いたまま、ちょっと笑った。俺は馬鹿なんだ。よかった。


つくばの六月の夜はつま先から凍りつきそうなほどで、俺はこの場所から一歩も動けなかった。頬の痛みは完全に引いていて、自分が殴られたのかさえよくわからなかった。松見池の真っ黒い水面に映ってる街灯のブルーライト。俺たちはみんな同じ服を着ながらひとりになりたくないって言ってる。だからカケルさんとラーメンを食べにいけばよかった。そうすればもっと違う今があったかもしれない。数えきれないほどの選択肢の積み重ね。実際には再選択は不可能だから、イマココにある今をできる限りの誠実さで手繰っていくべきなんだ。


それでも俺はおまじないがなければ夜も眠れない小さなガキで、明日になったら通りすがりの誰かを死ぬほど傷つけるに違いない。
だから俺に乾いたくちびるでキスして、おやすみって言ってくれ。
作品名:End Of A Century 作家名:坂井