女郎蜘蛛の末路・蜘蛛廻り編
0 ある雨の日の場合
ざあざあと強い雨が降っている。染谷紅子は『事』が終わり慌ただしくなった通りを、カフェの硝子越しに覗く。
男は、――最中苺春は紅子の顔を見上げる。そして、苺春の絶望に染まった顔を紅子は表情のない瞳で見下ろす。
苺春の顔は濡れている。泥に塗れ、地に落ちて。まるでパフェのようだ。真っ赤な果肉とバニラのミックスアイスに真っ赤なストロベリーソース。泥色のココアパウダーとチェコレートソースを振って出来上がった極上のパフェ。紅子はそのデザートを、ただ無表情な瞳で見つめるのだ。
死んだ死んだ、また死んだ。付き合う男は尽く死ぬ。もう見慣れたモノだ。毎度毎度、よくもまあ死ぬものだ。
ふと紅子は、死に対して緩慢になり過ぎた自分に驚く。
――染谷紅子は死神である。彼女と付き合う男たちの多くは死んでいる。故の死神女。何度警察で事情聴取を受けたことか。何度犯人扱いされたことか。自分は何もしてないというのにっ!
ああいずれにせよまた死んだ。また相手が死んだ。死んだ死んだ死んだ!
そしてまた言われるのだろう。
『お前が殺したんだろう?』
何の証拠もないというのに。
作品名:女郎蜘蛛の末路・蜘蛛廻り編 作家名:最中の中