moonlight 改稿版(前編)
第一章
七月。夏休み前。
暴力的な暑さで、セミの声すら嫌に思う炎天下のなか、岩国総合高校(いわくにそうごうこうこう)職員校舎一階にある、放送室で、
『今日も聴いてくれてありがとう! 来週もよろしくぅー!』
ネオがマイクに向かって叫んだ。
そして、ゆっくりと音量を下げて、ホッ、と息をつく。
「……よし、今日もバッチリだったね、みっちぃ」
「ああ、おつかれ」
アコースティックギターを壁に置き、みちるはネオとハイタッチを交わす。今日もひと仕事を終えて、みちるは胸の高鳴りが緩くなった気がした。それはネオも同じだった。
周りにギャラリーがいるならテンションを楽しくできるのだが、ここにあるのは数々の機材だけ。幅も狭く、自分たち以外は誰もいないので、何回やっても、二人は緊張感を拭うことができないのだ。マイクの先にいる見えないギャラリー――学生たちはどう感じているのか、どんなふうに聴いてくれているのだろう、テレビでアーティストが収録する時もこういう気持ちなのかなあ、とネオは思った。
作品名:moonlight 改稿版(前編) 作家名:永山あゆむ