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数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~

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《第五幕》悪夢、再来


 雪の中、悠然とそれは進む。
 雪などものともしない鋼鉄の車輪を回し、セルシウスの村へと迫っていた。
 巨大な顎を開き、口内からは筒が伸びている。数式砲だ。
 戦争においても使われる兵器であるが、ロピタルのものは別格である。
 威力・精度はもちろんだが、なによりも機構そのものが不明なのだ。ゆえに、別格。
 巨体は健在。戦いがあったことすら感じさせない。
 そこに、ローレンツは肉迫していた。
 手にいつもの分厚い剣を握り、ロピタルへと迫る。
 しかし、彼は剣を振らない。
 当然だ。
 ロピタルの体には、あらゆる余分な外力を、反射・分散させる機構がついているのだ。幾ら剣を振っても、それは徒労にしかならない。
 だからこそ、彼は唱えた。
「"ジュール"ッ!!」
 それは炎熱の数式。
 鋼鉄をも溶かす高温が、剣を包んだ。
「おおおおぉぉお!」
 力の限り、彼は剣を振るう。
 ロピタルの足、巨大な複数の車輪を。それをつなぐ鋼のベルトを。
 斬れないと知ってなお、彼は剣を叩きつけて行く。
 一振りする度、足下の雪が熱に耐えられず水へと変わる。
 それが、彼の狙いだった――。
「――――――!」
 "天災"が雄叫びを上げる。
 災害に感情があるわけではない。ただの危険信号だ。
 ――ロピタルの巨体が、大きく傾(かし)いだ。
 足下の、存在すべき雪が、そこにはない。
 車輪ひとつでバランスを取れるように、ロピタルはできていないのだ。
 浮いた車輪が空転し、雪を舞い上げる。
 水しぶき。
 ロピタルの足が、ありえない水たまりへと入った。
 そして――倒壊。
 轟音とともに、ロピタルが地に伏した。
 ローレンツは心の中で、一息。
 だが。
 動けないはずのロピタルが、強烈な打撃音を発した。
 二度続いたそれは、ロピタルの起こした地震。化け物は、手をつくだけで、地面を揺らす。
 あまりの振動に、ローレンツは体勢をを崩した。
 足下は雪と水。滑らなかったのは幸いだろう。
 しかし、その一瞬はロピタルを救った。
「――――!!」
 ロピタルは、手を支えに立ち上がったのだ。
 大気を震わす雄叫びは、臨戦態勢の証。
 ロピタルの機械的な瞳は、ローレンツの姿を捉えて離さない。
 雪山を震わした腕が、彼を襲った。
 一撃。躱す。
 二発。避ける。
 三度。腕はこない。来るのは、――数式砲だ。
 ロピタルの口元に、光が収束する。
 取り出したのは、音速の数式。
「"マッハ"!」
 唱えると同時、ロピタルの口から、砲撃が放たれた。
 爆音。
 莫大な熱量は照射と同時に雪を水へと換え、空へと舞いあげる。しかしそれも一瞬で、すぐ後に雨としてそれらは降り注ぐ。
 ローレンツの体から、水がぼたぼたと落ちた。それは今の雨か、それとも先の"マッハ"による汗か。
「はぁ、はぁ、はぁ、化け物め……!」
 息を切らせながら、憎悪と畏怖を込めて言う。
 ローレンツは汗と雪で濡れた体を引きずり、ロピタルと距離をとる。
 だが、ロピタルはあの雨の中でも、"マッハ"によって音速で移動するローレンツを見失っていなかった。
 再び、光が化け物の口内へと集まっていく。
 閃光がローレンツを貫く――かと思われたその時。
「――「アトム」――!」
 突如として現れた空気と水の壁が、光を分散させた。
(これは……)
 ローレンツは思い、後ろを向く。
 そこには、
「ローレンツ君、遅くなってごめんね」
 そう言って笑う、ミリアが居た。
 ローレンツが戸惑っていると、
「ミリアだけじゃない。オレもいるぞ?」
 ミリアの後ろから、二本の槍を構え、ヘルメスが現れた。
「ヘルメス!?」
「悪かったな。説明不足で。今回は手伝ってやるさ」
 ローレンツは口を開こうとするが、
「おっと、お喋りの暇はないぜ。"天災"相手にくっちゃべってちゃ、殺してくださいって言うようなもんだ」
 ヘルメスの言葉に、
「……、そうだな。今はアレの相手だ」
 三人の視線は、ロピタルへとそそがれる。
「どうするの? ルートを変更するくらいしかできないよ?」
「ルートの変更でも辛いけどな」
「おいおい、簡単に言うな?」
 ヘルメスが問うのに、
「ダランベールでは、軍でやったんだ。三人でもできるだろう」
「はっはー、言うね。なら、やるしかないか」
「それで、ルートは?」
 ミリアが尋ね、ローレンツが山の奥を指した。
「あっちにはなにがある?」
 ローレンツはヘルメスに聞く。
「向こうは……北だから……何もないはずだ」
「ふむ、何もないなら、最寒地帯だな?」
 ローレンツの質問に、
「? まぁ、そうだが」
「よし、ルートは最寒地帯だ!」
 ローレンツが言い切る。
 それにミリアが、
「なんだって、あんな方に?」
「ロピタルは、急な方向転換ができない。無限に移動できるのなら、する必要がないからな。しかも、最寒地帯は伊達じゃない。俺の知る中で、間違いなく"最寒"だ」
「そうか! 最寒地帯なら、ロピタルですら凍るやもしれない」
 ヘルメスが言うのに、付け足してローレンツは言う。
「それに、少なくとも、あそこから回ってくるのは時間がかかる」
「なるほど。それなら、あとは頑張るだけだね!」
 二人は頷いて答え、
「行くぞ、あいつを村にいれるな!」
「うん!」「おう!」
 "天災"との戦いが、始まった。