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おもかぴえろ
おもかぴえろ
novelistID. 46843
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魔法使い、旅に出る

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 地図に行き先を丸で囲むかぴー。

「蔵王辺りも居そうだよね」
「蝦夷富士も」

 キュキュッとマーカーペンが音を立てる。

「とりあえず北上しながら虱潰しに行くかぁ」
「すぐ見つかるといいよね~」

 手紙を読んで大人二人はこれからの移動を打ち合わせていた。
 さよの能力で旅中の野菜類を賄ってみようじゃないか、その為にはポットが必要。
 錬金術師に問合わせ、まぁ悪くない手答えに安心したのだ。
 紙飛行機も方法はレトロだがなかなかどうして、いざという時の連絡手段に役に立つ。
 手は多いに越したことはない。

「ところで」
「んー?」

 真顔でかぴーは話題を変えた。

「コーヒー、飲みたい」
「はー?」
「よし、みんなでおやつ食べにいこ」

 ワガママ炸裂であった。





 頭使うとお腹は空くし、タバコは恋しくなるし。
 全く良いとこなしね。
 まあチバンはグーンマーと割と近いし、久々にマダムキリコの顔も見たいわ。
 誰かは

『雨暫く降らせておくから~。あたし出かけてくる☆』

 って行ったまま帰ってこないし、出掛けるかぁ。
 ――打ち合わせてる間こんな事を考えてたかぴーである。


 ワープでチバンのとある看板の近くに飛んだ。

「『マザーフーズとコーヒーの店 honeybee』?」

 犬が看板を読み上げる。

「ミツバチ?」

 首を傾げる犬。
 初の生神様騒動から妙に度胸の付いた双子はきゃあきゃあはしゃいでいる。

「ここね、ステキな店なんだ。味は保証する」

 ちょっと含みのある物言いに犬は更に首を傾げた。



 海を望む小高い丘の上にその店はあった。
 丘の上までなだらかな坂道が続いており、店に来るお客様には風景を楽しみながらお越しいただきたいと言う店主の意向で丘には移動魔法除けが施されていた。
 一行はその道をテクテクと元気よく歩いていた。
 ……若干一名を除いて。

「かぴちゃん、手、繋ご♪」
「……」

 右手にさよ。

「おれも繋ぐー♪」
「……」

 左手に一休が。
 手を握りブンブンと振っている。

「おかーさんはー?」

 笑いながら犬は子供達に声を掛けた。

「おかーさんも繋ごー♪」

 さよが元気良く手を伸ばす。

「わーい、ありがとうー♪」
「おれもー!」

 楽しそうに歩く親子とは対照にかぴーは肩で息をしていた。
 子供達に返事をするどころではないのだ。
 ほんの数メートル坂を登るだけなのにこの体たらく。
 店は目の前。
 HP50のかぴーは必死で歩いていたのだった。



 丘の上には暖かな色使いのレンガのの建物がほっこり出来そうな佇まいを見せていた。

「うわぁ、ステキな建物」

 犬は感嘆の声をあげ、ドアを開けて目を丸くした。
 開けた先には入り口から店内が覗けないよう衝立がどーんと置いてあり、左右に

「医食同源」
「美食同源」

 と実にしっかりとした力強い筆文字が。
 建物とのアンバランスさに次第に笑いがこみ上げてきた犬は遠慮なく爆笑した。

「いらっしゃい――お客様?」

 ドアベルに反応して店主のマダム・キリコが姿を表した。

「すみ、スミマセン! 素敵なセンスだと思って☆ まさかこうなってるなんて思わなかったから」

 なんのことかわかったマダム・キリコは肩をすくめた。

「あぁ。飽きちゃったのよね。どうぞ? お好きなところに座って?」

 さらりと言われた言葉に犬は更に笑った。

「そこの虚弱児。座るなら椅子にお座りなさい」
「はぁい」

 マダム・キリコからすればかぴーなど子供と変わらないようであった。





 マダム特性ホットケーキを頬張りながら犬は真顔で言った。

「あのね」
「あい」
「子供より体力ナイってどうなのよ? ん~このシロップ美味しい~♪」
「「おいしー♪」」

 犬は頬っぺたに手を当てながらもかぴーに詰問する。

「良かったねー♪」
「いやいやいやいやキミ、質問に答えてないから」
「え? シロップ美味しいんでしょ?」
「その前だよ」
「?」

 きょとんとするかぴーに犬はイラッとした。
 そこにマダム・キリコがくすくす笑って加わった。

「お口に合ったみたいでよかったわ。この子はねぇほんと何度言っても聞きやしないんですよ」

 マダム・キリコの視線にかぴーは

「ああ、こちら魔法使い仲間の犬さん。と子供達。犬さん、マダム・キリコだよ」

 と話をそらした。
 彼女には口を酸っぱくなるほど人並みに体力をつけろと言われ続けていたかぴーなのである。

「犬です。よろしく、マダム・キリコ」
「こちらこそ」

 にこやかに挨拶しあう二人を他所にかぴーはマダム特製レモネードを啜った。
 ずびびーっと音を立てるかぴーにマダム・キリコは眉を顰めた。

「子供の前でお行儀が悪いわよ」
「おかわり♪」

 にぱっとかぴーはグラスを差し出した。
 やれやれ、と額に手を当ててマダム・キリコは溜め息を吐いた。