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アインシュタイン・ハイツ 103号室

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食料を手にわさわさとレジにやってくる高校生を奈桜を手分けして捌く。捌く、捌く、捌きまくる!
何で高校生って軍団で動きたがるのかなー、と愚痴めいたことを考えながらレジを打ち続け、ひと段落する頃にはパンやおにぎりといった系統の棚はほぼ空っぽの状態になっていた。
棚の補充。あと発注。(やっぱり平日のこの時間帯は多めに)
「店長と山井さん、出てきませんね。」
「……ですね。今日はもうダメかな……」
時計を見上げてため息を一つ。山井さん、シフト時間もうすぐ終わりじゃありません?
「あの、さっき言ってた勝率九割って。」
「あ、それ。山井さんが、九割です。」
「…あっ、山井さんが?」
おばちゃんは、最強なのだ。
「しょっちゅう言い合いしてますけど、店長が勝ったのなんて本当に数えるくらいですよ。ロス弁当持ち帰りOKも、これまでチャラけたバイトが三、四人連続で辞めてるのも、一角になんか妙に所帯じみてるコーナーがあるのも、山井さんの勝利の結果です。」
「えええ?そんなのアリなの?」
奈桜の信じられない、という顔。当然だろう。
おばちゃんは、常識で測れない。
「俺が知っている限りは、店長が勝ったのは『大量に買い物してくれた人に勝手にオマケをしない』っていうのと『レジで知り合いと長々長話をしない』っていうの位かな。後は大体店長が折れてます。」
「……ぶっ。」
小さく奈桜が吹き出した。
ここは八百屋や魚屋じゃないんです、と店長がある時山井さんに言っていたのを覚えている。真剣な表情と言ってる内容とのギャップに、伊織も思わず笑いそうになったものだった。
「今日は、アイスについて言い合いしてたみたいですよ。」
「あいす?アイスクリーム、について?」
「あ、すいません。”アイス”って、うちのハイツのアインシュタインのことで。」
「!ああ!こないだここに入ってきましたよ〜。」
さすが同じハイツの住人なだけあって、フルネームを出すとすぐに通じた。…といっても「あの美人なロシアンブルー」とさえ言えば、結構な数の人に通じるのだが。
「店に入れるな、だの何だの店長が怒ってるみたいで。」
「えー、でもアインシュタイン勝手に入ってきましたよ?なんで山井さんに。」
「山井さん、ミドリさんのファンだから。」
ミドリさんは、女子高生にたいそう人気で、よく追っかけ回されている。そして更におばちゃんにも隠れファンが多い。らしい。
その一人が山井さんだ。
「アイスが来ると喜んで自動ドア開けに行くし。多分、アイスに自動ドアの開け方教えたのも、山井さん、な気がする。」
「……山井さんて……」
「うちのコンビニ最強。」
です。


□■□


「お疲れさまー、あら来てたの伊織くん。」
「お疲れっす、山井さん。」
バックヤードの扉が思い切りよく開いた。それと同時に飛び出す山井さんの声。
「あーら、藤田さん、もうすぐバイト終わりよね?好きなお弁当、たくさん持っていきなさいね。」
「あ、ありがとうございます。」
上機嫌でニコニコ顔の山井さんの後ろから、げっそり疲れた顔の店長が続く。
あー、山井さんの勝訴ですか。良かったね、アイス。
「店長、藤田さん俺が来るまで一人でしたよ?バイト代三倍くらい付けて下さいよ。」
「三倍!?志摩くん、さ、三倍はムリだ。けど、うん、考える。すまないね、藤田さん……。」
反論する元気も残っていないらしい。相当振り回されたのだろう。
お疲れ様です、店長。でも店長のシフトはまだまだ終わりませんから。
男二人、頑張りましょう。


山井さん。バイトのおばちゃん店員で、伊織の頼れる先輩でもある。が。
新人種「おばちゃん」。型破りなマイ常識装備で、マイルール独断専行。
気に入った人には甘く、気に喰わない人には厳しい。
ただ、店長に対するそれは、信頼ゆえの無遠慮。愛の鞭。ということにしておこう。


店長の胃に穴が開いたら、山井さんのせいだと思う。