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アインシュタイン・ハイツ 103号室

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履修登録vsスケジュール


うーん、と、伊織は一週間の予定表を前に厳しい表情で腕を組んだ。
(難しい。実に難しすぎ。)

ついこの間、伊織の専門学校生活二年目が始まった。
学生の春のお約束と言えば、そう。履修登録というヤツだ。こればかりは何度やっても慣れるものではない。というか、苦手だ。
幸い去年そこそこ手を抜かずに励んだお陰で、卒業の危機には陥らずに済んでいるが、それでも楽をしたいのが人の性である。
1:出来れば去年よりはバイトを増やしたい。
2:出来れば将来のために週に一度は介護施設に顔を出したい。
3:出来れば週に一日くらいはオフにしたい。
欲望ばかりがぐるぐる先走って、中々スケジュールが埋まらないのが、現状だった。
机の上で、開講講座一覧表と、バイトのシフト表、介護施設のパンフレットとスケジュール表が四つ巴でせめぎあっている。こんな時にアインシュタインが遊びに来てくれたらいいのに、と思うのだが、こういう時に来てくれないのがアインシュタインだ。
仕方ない、と覚悟を決めて伊織は転がしていたシャーペンを握りなおした。


月 オフ??
火 学校・バイト
水 学校・バイト
木 バイト
金 学校・バイト
土 施設・バイト?
日 昼からバイト?


こんなもんかなあ、と伊織は一つ頷く。一時間の格闘の末に出来上がったのが、この予定表だった。
学校がある以外の日に「?」が多いのは、まだサイクルが動いていないから仕方ない。新しい生活が動き出せば、オフが消えたりバイトが増えたり、或いはその逆か、まあ安定していくに違いない。
そういえばバイト先に新しい女の子が入ったのだが、その子がなんと同じこのハイツの住人でとても驚いた。
仕事の呑み込みは早かったし、コンビニのボス的存在(店長も勝てない)であるおばちゃんにとても気に入られていたので、これから先も大丈夫だろう。
春。新しい生活を始める人が、たくさんいる。伊織だって、その端くれには違いない。
頑張ろう、と伊織は決意した。決意するような事じゃないだろ、とも思ったが、とにかく伊織は目の前に広がるスケジュール表に誓った。
ついでに、楽しい一年になりますように、とポンポンと拍手も打っておく。


さて今日は月曜日。さっそくオフの日だ。
とりあえずぽかぽかとても良い天気なのを記念して、近所にあるカフェ「VOICES」の美味しいケーキでも食べに行こうかな、と伊織は上機嫌で携帯と財布を取り上げた。

何が起こるか分からないこれからを考えるのは、ちょっと怖いけど、でもやっぱり楽しみでもあるのだ。