和尚さんの法話 「前世と来世」
これは鷹か猟師に撃たれたのか、若しも死んでるんだったらその冥福を祈ってやろうと思ってお経を読んだんですね。
そしたら或る晩に夢を見て、百舌が現れて、私はあなたのお経を聞かせて戴いた百舌でございます。
ところが鷹にとられて死にました。
然し、そのお経の功徳を戴きましたので、今度は人間に生まれることが出来ます。
そして私を弟子にして戴きたいのです。
京都の油小路に筆屋源兵衛という店があります。
私はその家に生まれますので、どうぞ私を迎に来て下さい。
と、こういう夢を見たのです。
これは妙な夢を見たものだなあ、これは本当だろうかと思ったんですね。
それから月日がたって、京都の本山に用事が出来て京都に来る機会が出来たんです。
それで夢で見た店を調べにいくわけです。
そして行ったところが大きな店で、のれんに大きな字で筆源という文字が入ってたのですぐに判った。
店へ入ってみるとそれらしい子供は見当たらないんですね。
しばらく様子を見てるわけです。筆をいじったり硯をいじったりしていると、表からお守りの人が子供をおんぶして入ってきたんです。
その子供を降ろすと、じろーっと坊さんの顔を見て、よくなついているような感じに見えるんですね。
店の人は、此の子は人を見たら逃げてしまう子なのに不思議な坊さんですなあということです。
坊さんも子供を見て、ああ、此の子だなと思った。
夢の話しからすると、何時頃に生まれるという話しもあってるし、と思って、自分の見た夢の話しを店の主人にするわけです。
すると、その主人がそれを信じて、それならばこの子を連れて行って下さいというわけです。
然しながら私は一人ですので、男手一つで小さい子を育てることが出来ませんので、有る程度大きくなるまで育てて下さい。
手を離しても大丈夫と思う頃に私はまた迎えに来るから、それまでこの子を育てて下さいと。
主人は、承知致しました。
と、主人と坊さんと約束をするんです。
そしてその時が来て、迎に来るんです。
そしてその主人が見せをたたんでしまうんですね。
店をたたんでしまって、財産の半分を使用人たちに分けてあげて、残りの半分を持って、子供と一緒に坊さんと岐阜へ行くんです。
いずれはこの子も坊さんにしてもらうし、寺も要るだろうと思って、お寺を建てるんです。
そして自分はその寺の門番をして、自分の子供が成長するのを楽しみに住んだというそういう話しです。
百舌が人間に生まれたという話しなんですね。
これは生まれ変わりの話しじゃないんですが、和尚さんの寺へ来たお客さんが、こういう話しをしたことがあるそうです。
その人は猫が好きなんですね。
何匹か飼ってるんですね。
或る雨の日に、鴨川の土手を歩いてたら小さい黒い子猫が捨てられていたんです。
雨に濡れて猫はぐしゃぐしゃでしかも黒ですから格好が悪いですね。
ところがその人は猫が好きですし、可哀相やしなあと、その猫のところを行ったりきたりして、どうしようか連れて帰ろうか、もうほうっておこうかと思ったけれども、いかにも見過ごすことが出来なくて、その猫を連れて帰って飼うことにしたんです。
そして後年、その猫が死ぬわけですが、そうしたら或る夜に夢にその猫が出てきたんです。
猫は人間の言葉で、私はあの雨の日に、鴨川の土手へ捨てられて難儀をしておりました。
ところがあなたに救われて、私は本当に助かりました。
つきましては、あなた様にご恩返しをしたいんです。
近いうちにあなたの家にこういう話しが起こってきますから、その話しをおまとめなさいませ。
あなたの家のためになりますので。
ここのお家は反物に関する商売をしてる家なんですね、そして夢の話しにあったような話が出てくるんです。
あ、これだなと思って、その話しを受けたんです。
そしたら商売がとんとんと上手くいって、大変家が栄えたらしいです。
と、いう話しを和尚さんの寺へ来たお客さんが話したそうです。
猫が人間の言葉で言うたというんですよね。
だから百舌が人間の言葉で話したというのも疑えないですね。
猫の話しは、現在生きてる人が言うた話しですからね。
生まれ変わりという話しではないんですけど、ご恩返しをしたという話しですね、そして夢で猫が言うたとうりになったという話しですから。
不思議な話しですね。
この話しを聞いて和尚さんは、この猫もいずれは生まれてきて、この主人となんらかの縁があるんと違うかなと思ったそうです。
話しは変わりますが、和尚さんの寺の裏山に誰かが犬を捨てにきたんです。
山で犬が鳴いてるなと思ったんですが、寒いのに一晩たってもまだ鳴いてるから山へ上ってみたら箱の中へ犬を入れてたんですね。
捨てられてるから可哀相にと思って連れて和尚さんが飼ったそうです。
犬は足をびっこひいてたので、交通事故かなにかに遭ったんでしょうか、それで山へ捨てに来たんでしょうね。
初めは歩き難くそうにしていたけど、成長するにつれて、ちゃんと歩けるようになったんだそうです。
そして或るときに、女の人が寺へ訪ねてきて、この犬は家の犬ですと言うわけです。
で、和尚さんは、この犬は山へ捨ててましたんですと言うと、そうです、捨てましたんですと、その女の人が言うんですね。
交通事故に遭ったので、もう助からないと思って捨てたんだと。
然し、歩けるようになった犬を見て、その犬を返してもらいたいと言うわけです。
で、和尚さんはかまいませんというと、犬を連れて帰ったんです。
ところが犬を捨てた頃はまだ子犬でしたので、和尚さんになついてしまってるので、その女の人になつかないんですね。
それで犬は4~5日ほどたったら戻ってきたんです。
犬というのは慣れてないところに居ると鳴くでしょ、夜でもぎゃんぎゃん鳴きますね。
近所の人は迷惑しますよね、犬は元の主になつかないでぎゃんぎゃん鳴いたんだと思うんですね。
こんなに鳴くと近所の人に迷惑がかかるし、怒られてしまうというので犬を放したに違いない。
それで犬は和尚さんの寺へ帰ってきたんです。
それで元の主は来なかったけど、犬を飼ったそうです。
それから何年も長い間その犬を飼ってたんですけれども、急に何処かへ行って帰ってこなくなったんだそうです。
それで和尚さんの子供が犬が欲しいと言うので、犬を飼ったそうですが、和尚さんが言うには、その犬は前の犬のような気がしてならんそうです。
証明のしようがないんですが、どうも行方不明になった犬のような感じがするそうです。
とにかく、人間でも犬でも猫でも生まれ変わるということを信じて戴きたいと思うのです。
この話しは、他のお話のときにもありましたけど、初めてという方も居られますのでお話します。
和尚さんのお寺へいつも線香を売りに来る人がいて、いつもあの世があるのかと聞くそうです。
先日も、その線香売りが来て、和尚さんに今日は暇ですかと聞くから暇ですと言うと、和尚さん、あの世はあるんですかと聞くんですね。
で、和尚さんは、何遍も家へ来てはあの世があるのかと聞くが、霊魂というものはあるんだと。
あの世が無ければ坊さんは成り立たないじゃないかと。
作品名:和尚さんの法話 「前世と来世」 作家名:みわ