冬、雪の街
正直な話を言おう。これは遺書だ。これから希の遺書を読む。そして、希のいるところへと向かうんだ。無職が一匹、人生に絶望して死ぬんだ。はっはっは。
俺はノートを開いた。
彰彦へ
これを読んでいるということは私はもう居ないのでしょう。ずっと一緒にいられるって思ったんだけど、ごめんなさい。無理でした。
でも、私は死んでも貴方と一緒にいるよ。
なんて、言わないよ。
生きてね。
なんても言わない。
だけど、私を理由に勝手をしないで。
貴方は自分勝手だった。いつも私の都合なんて考えないで、貴方が考えたことをそのままやってた。高校の時のデートなんて、毎回貴方が勝手に考えて、そのとおりにやってた。そんな貴方が私を理由に死ぬなんてズルいよ。自分勝手に生きてよ。たまには私にもわがままを言わせてよ。
貴方がどれだけ自分勝手なのかは私が一番良く知っている。私の知っている貴方はこんなことで死にはしない。確かに死ぬことも貴方も自分勝手なのかもしれないけど、だけど、私を理由にはしないで。それが私のお願い。
ねえ、あのクソ映画覚えている?
主人公の女の子が男の子に守られて、男の子は死んじゃうんだけど女の子は生きる話。でも、その女の子は前みたいには笑えなくなって自暴自棄になる話。
私、ひとつだけわがまま言うね。
やっぱり生きて。生きて、私のことを忘れないで。
あ、明かりが消えました――
俺は吊るしてたロープを切った。焚こうとした練炭を外に放り投げた。包丁を台所に戻した。
そして、やっと涙が出た。
「うわああああああああああああああああああああああ!」
希は死んだんだ。やっと分かった。
いや、頭では分かってた。だから、死のうとした。でも、確かに自分勝手だよな。希、俺がお前を理由に死ぬなんて。
二十二歳の無職だけど、そんな俺にも生きていくには十分尊い理由があった。希との思い出があった。
希、さようなら。