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冬、雪の街

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――彼女を失って何年経ったのだろうか?
 俺はまだ傷を癒せないでいた。
 ――あの時、彼女が言った言葉が心に残っていた。
 アイツじゃなかったらこんなに疼くことはなかったんだろうな。
 ――だから、僕は君を忘れられない。
 お前だから、俺は忘れてたまるか。
 そう思えるんだ。


 冬の日だった。寝相の悪い俺は布団を蹴っ飛ばし寒さで目が覚めた。カーテンをめくり外を眺めると、そこには一面の白の世界があった。
「雪だ」
 思わず呟く。確かに昨日の夜、窓を叩く風が強いとは思ってはいたが、それは吹雪だったのだ。
「うー、さみぃ」
 俺は再び布団に潜ったが眠気は訪れてはくれなかった。俺は極力眠る生活を続けていた。寝てる事は半分は死んでいるような事だった。気が滅入る毎日に嫌気が差した俺は眠ることで現実から逃げていた。
 五時半。まだまだ早い。病院が開くにはまだまだ早かった。
 そして、俺は思い出す。彼女が、柊希が入院したことを。
「癌?」
 時は七年前に遡る。高校受験を目の前にした俺と希は一緒に勉強をしていた。田舎だった故郷に飽々して、俺達は電車で一時間の偏差値の高い高校に入ろうとしていた。
「うん。私、癌なんだって」
 それは唐突だった。学校が閉まる六時まで勉強をして、暗くなった帰り道、そう、雪が降っていたあの時のことだった。
「ははは。冗談だろ?」
「……胃癌なんだって」
「……」
 俺は真剣な口調の希に思わず言葉を飲んだ。
「夏に発見されたんだ。レベル2で、まだまだ治療すれば治るんだって」
「でも、お前、そんなこと今まで何も……」
 俺はどうしても言葉が上手く出てこなかった。
「ごめんね。彰彦」
 東彰彦。俺の名前だ。下の名前を呼ばれるのは初めてだった。
「どうして……」
 俺はまだまだ言葉が見つからない。
「ねえ、こんな私だけどさ」
「うん」
「付き合ってくれない?」
「へ?」
 それは唐突な告白だった。仲のいい友達が癌だと言った直後に付き合ってくれと言ってくる。理解不能なシチュエーションだった。
「癌のことを隠してたら、フェアじゃないって思ったし。それに、今ならまだ私たち別々の高校を選べるから……ね」
 希は苦笑しながら言った。
「……馬鹿」
 俺は俺で照れてそんなことしか言えなかった。
「いいよ。付き合ってやる。付き合ってやるかわりに癌治せよ」
 簡単に言ったものだと我ながら思う。癌で死ぬ人間なんて数知れず、数多い。いや、俺はきっと治ると信じていたのだ。レベル2が重篤なのかも知らずに俺は平気な顔で希を傷つけた。
 けれど、希は笑った。次は苦笑じゃなかった。
「うん。ありがとうね」


 高校は同じ高校に進学できた。クラスは三年間一緒じゃなかったし、俺の母親が勝手に弁当を作るものだから、弁当の受け渡しなんて青春はなかった。それに、高校では俺と希の関係は秘密にしたかった。中学の延長みたいな生活が嫌だった。
 今、改めて思うと俺は自己中心的だった。彼女の都合なんて、気持ちなんて全然考えちゃいなかった。
 俺は帰宅部。希は癌のために同じく帰宅部だった。けれど、俺達はいつも登下校は一緒にしなかった。照れくさかった。そんな甘い一時は休日だけで十分だった。希は希で、俺と一緒にいられるならなんだっていいって言ってた。その言葉に偽りは無いと最近になって知った。
 高校生活は特に何も無く過ぎていく……。そのはずだった。気がつけば希は学校に来なくなっていた。ある日、俺は三年ぶりに、中学三年生ぶりに希の家に行った。
「おや、東くんじゃないか」
 迎えてくれたのは希の父親だった。
「こんにちは。その、希って最近どうしたんですか?」
 会話が苦手な俺は単刀直入に訊いた。
「ああ、希……。あの子ね」
 希の父親は明後日の方向を見て、ため息をついた。
「ところで、君は希と付き合ってるんだよね」
「え、あ、……はい。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「いや、いいよ。かしこまらなくて。希に色々聞かせてもらったよ。なかなかいい彼氏さんらしいじゃないか」
「いえ、それほどでも……」
 そこで希の父親は咳払いをした。
「失礼。関係ない話だったね。その、希は入院してるんだ」
「入院?」
「癌のことは聞いているだろう。それが、ステルス性の癌がもう一つ見つかったんだ。肝臓にね。それで、残念だけど入院してるんだ。妻は希に付きっきりで家のことは極力僕がしているんだ」
 俺は絶句した。もう、高校三年生の冬だ。学校生活がもう終わるのに、希が楽しみにしてたクリスマス会だってもう少しなのに。俺は拳を強く握った。握ったままで、言葉は出なかった。
「まあ、上がってくれたまえ。お菓子のひとつぐらい食べていってくれ。君とは一度、たくさん話をしたかったんだ」
「……はい」
 希の家は三年前と全く変わらなかった。平凡な家庭。家の大きさも程々で、庭は僅かな広さしかない。部屋は一人一部屋に物置部屋もある、本当に平凡な家だ。
「希とはいつから付き合っているんだい?」
「はあ、まあ、中三の冬からです」
「ああ、道理でそのころから色気づいたわけか。いや、父親になると娘の変化には敏感になるものでね。ははは」
 希の父親は笑った。つられて俺も笑った。
「それで、どこまで行ったんだい?」
「へ?」
「ほら、色々あるだろ? 付き合っているとさ」
「喜多方、ぐらいですかね。ラーメンを食べに」
 それを言ってから質問の意図に気づいた。訂正するよりも早く希の父親は笑った。
「ははははは。場所じゃないよ。行為だよ。行為。怒りはしないから正直に言ってくれ」
「ええっと……。キスまで、です」
「本当かい?」
 打って変わって真剣な顔付きで言われた。キスまでというのは実は嘘だった。その、男女なのだからヤることはヤっていた。
「その寝ました。一緒に……」
「ほう……」
 眼鏡の奥、希の父親の瞳の色が変わる。怒らないと言ったのに、この人は約束を反故にするつもりなのか? 俺は恐怖した。
「いや、ありがとう」
「え?」
 てっきり怒られると思っていた俺は拍子抜けした。
「希は……、いつまで生きられるか分からない。だから、できる限りの幸せを教えたかったんだ。それを君は教えてくれた。ありがとう」
 希の父親は頭を下げた。
「頭を上げてください。そんなこと……、俺は別に大したことなんて」
「希には大切なことなんだ。分かってくれ」
 その一言に俺はハッとした。健康な俺にはこれから先にも行為をすることはあるだろう。けれど、死と向き合っている希にとって行為は、もうそれほど行う機会はない。いや、完全にないのかもしれない。
 その後、俺は希の父親から希の状態について詳しく話を聞かされた。
「君は希の大切な人だからね」
 一から十まで、病状について色々かいつまんで希の父親は話してくれた。けれど、俺は全然
癌の恐ろしさを知ってはいなかった。
 希が学校に来なくなってから一ヶ月が経っていた。最後の定期テストも終わり、クリスマス会へ向けて学校のムードは意気揚々としていた。俺は定期テストが終わるとあらかじめ聞いておいた希の入院している病院へと向かった。
作品名:冬、雪の街 作家名:よっち