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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (3)

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前日に続いて身体がまともじゃないっていうのに、
帰り道で、
他校のワルと鉢合わせ。
おまけに、その中の一人が、以前俺と喧嘩した奴だった。

「やってくれたよな、あの時・・」
などと、
奴め、今日は一人じゃないから威勢が良い。

すぐに取り囲まれて、
俺は、病気の上に怪我までするんだなぁと思った。
だが、
じっとしてやられたんじゃ、堪ったもんじゃない・・
だから、

「こんなに大勢が相手じゃ、敵いっこない。・・だから、遣りたい様に遣れば良い。だが、俺は、お前達の顔だけは絶対に覚えておくからな・・」
って、ちょいと虚勢を張って見た。

奴等の態度が変わった。
お互い顔を見合わせ、そして、

「今日は、見逃してやる・・」 と・・
(ああ、助かった・・)

考えてみれば、
これまでの俺は、虚勢ばかり張って生きて来た。

死の意味も分からず死んでやるとか思ったり、
(本当に死ぬ勇気が有るのなら、何処ででも死ねた筈だ)
中近東へ行こうと思っていたのに、
金を稼げなくて、こんな処にしか来れなくて、
一人で生きれなくて、何時も助けられてばかり・・

なんてつまらない、どうしようもない人間なんだ・・
だから、
この国の女性が、
いくら俺に興味を抱いたって、
俺なんか、あんたの相手として相応しくないよと、
本気で言っているのに・・
向こうは向こうで、

「私みたいな学校にもロクに行っていない人間なんて、興味ないのね・・」
とか、勝手な思い込みで言うものだから、

俺は、ますます惨めな気持ちになって・・

外灯ひとつ無いこの村の、
小さな家の、
薄い壁に仕切られた、小さな部屋で、

夜中に下を向いて、ポツンと座っている・・
そして、
そんな俺を、もう一人の俺が、後ろから眺めている。
そんな日は、
寝るのが怖い。

そんな夜に限って、
生まれて初めて閉じ込められた・・、あのオジキに閉じ込められた土蔵の暗さと怖さが、形となって迫って来る夢を観る・・
だから、 寝るのが怖いんだ・・

きっと俺は、
その時の怖さを払拭しようとして、
喧嘩ばかりして来たのかな・・

分からないけど、

兎に角、こんな事を考えられるまでに成長させてくれたこの国の人達に感謝しようか・・
まだまだ心の底からではないけれど、
決して嘘なんかじゃないから、

ありがとうって言っても良いのかな・・






   心 の 会話


夕方、
これで何度目になるのか・・ 
俺は、久々におっさんと長い時間を共にした。

山に行ったきり、何時もより長い滞在を決め込んだ太っちょも、
里帰りで両親の住む村を訪ねていたチャイリン夫婦も、
みんな揃って、また元の生活が戻って来た。

俺は、
何だか意味有りげに、
彼等が居なかった二週間の出来事を根掘り葉掘り聞かれるのが厭で・・
それに、

確かに最初は、決して良い感じはしなかったが・・

同じ町に住み、
顔も名前も知らないけれど、

「お兄ちゃんは、ぼくのパパと同じJapanese・・」
と嬉しそうに話すチーターの事がもっと愛しくなったり、
思いの外、
人の感情とか心の問題や、
自然の中の一部として、人間を捉える考え方など、
母親のエミーとも随分理解し合えた気がする。

だから、
太っちょやチャイリンが戻って来たら、
行こうと決めていた、おっさんの墓参りにエミー親子を誘った。

「あんたも嫌だろ、色々煩く聞かれるの・・?」

もう結構な歳なんだから、
今回は、俺たちが仕入れをしてきてあげるよ・・と、
雑貨屋のおっさんを上手く言い包めて、

おれは、彼の車に三人分のスペースを確保した。

マニラに着くと、
真っ先におっさんの墓に向かいたいのだが・・
今回は、
チーターのマニラ見物を最優先に・・

「あっ、階段が動いてる!・・上に行ったり、下に行ったり・・」
「これは、エスカレーターというんだ。」

子供は、好奇心の塊。
怖がっていたのは、ほんの僅かな時間。

チーターは、何度も何度もエスカレーターで上がったり下りたりで忙しい。

「チーター、動く部屋だって有るんだぞ。」
「・・お兄ちゃん、うそ言ってる・・」
「嘘じゃないさ。扉だって、手を触れないで開いたり閉じたりするんだ。」

生まれて初めてのエレベーターの中、
チーターは、
怖がってエミーにしがみ付いていた。

二週間、楽しく遊んでくれたチーターと、
俺に、
静かに物思いにふけったり、
心の在り方とか、生とか死とか・・
ゆっくりと深く想わせてくれたエミーに、

お礼の気持ちを込めて、靴とTシャツをプレゼント。
そして、
地下の広々とした、
とっても賑やかなファースト・フード店が並んだスペースで、
エレベーターでのチーターの格好をからかいながら、フライド・チキンとガーリック・ライスを食べた。

そして、
二人を残し、
俺は、おっさんの処へ・・

おっさんが埋められている柩の周りの草を一本一本抜きながら、
色んな事を話した。

「・・ああ、まあ上手くやっているよ。」
「・・チャイリンは、あんな奴と一緒になったけれど、やっぱり彼女は凄いぞ。あんな奴を、見事に操っている・・、俺は、あんな女と一緒にならなくて良かった・・」

「負け惜しみを言ってる場合じゃないだろう・・」 と
おっさんの声が・・

俺は、周りを気にせず、声を出して笑ってしまった。
おっさんの前じゃ、格好つけても全てお見通しだもんな・・

塵ひとつない、綺麗な墓になったけど、
まだまだ離れたくなかった・・
何故か・・此処に居ると、心も体も透明になって、
溶けて無くなってしまいそうな妙な感覚だ・・

他人だけど、
おっさんは、本当に俺の事、気に掛けてくれていたんだな・・
オヤジの・・本当のオヤジの様な気持ちで見ていてくれたんだな・・

そんな思いが頭を過り、
さっき笑ったばかりだというのに、
今度は、涙が溢れて来た・・

もうこんな時間だし、
チーターやエミーが待っているだろうけど、

もう少し此処に居させてくれよ・・