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プロローグ
それはもうずっと昔のこと。
僕は、幼かった。
近所に、男の子が住んでいた。
その子は僕よりずっと年上で、彼はとても大人に見えた。
もう、名前も覚えていない。
男の子のおうちは厳しい、って聞いた。
厳しいっていうのがどういうことかわからなかったけれど、簡単に言うといつもお母さんが怒っているんだって言っていた。
男の子は時々、悲しそうな顔をしていることがあった。
僕には見当もつかないどこか遠くを見るような目で考え事をしていた。
そういう時は大体、体のどこかに怪我をしていた。
男の子の小学校が終わってからの夕方の時間は、毎日のように一緒にいた気がする。
うちのお庭で遊んでいたような気がする。
いつも一緒。
そう、いつも一緒だった。
そして男の子は、いつも僕を大事にしてくれた。
今となっては、彼の顔を思い出すことも難しい。
でも、魔法の呪文のような言葉を、僕は、これだけははっきり覚えているんだ。
「君は僕の宝物だから。君のことは僕が絶対に助けるよ。」
男の子はどこかへ行ってしまったのだと思う。
気が付いたら、いつの間にかいなくなっていた。
もしかしたら、いなくなったのは僕の方なのかもしれない。
いつもすっかり忘れているんだけど、たまに、ふと夢なんかに出てきて、思い出すことがあるんだ。
今頃彼はどこで何をしているんだろう。
僕は、元気でやっています。